耳で調弦を確かめる練習は、基準になる音を聴き、自分の三味線がそれより高いか低いかを判断するところから始めます。最初は一つの基準音と一本の開放弦を比べます。三本を一度に聞いて、漠然と「合っていない」と感じるだけの状態から、直す音を一つずつ見つけていきます。
ここでは、三本の目標音が分かり、糸巻きを安全に扱える人を対象にします。糸や駒の取り付け、構え、糸巻きの持ち方は先に確認しておきます。耳の練習中に楽器の組み付けや修理まで進める手順ではありません。
目標音と基準音を同じ条件にする
まず曲の調子と三本の音を控えます。説明用に、二上りで一の糸C3、二の糸G3、三の糸C4という課題を考えます。C4はC3の一オクターブ上です。これは条件を決めた例なので、手元の課題が違えば、その三本分の指定を使ってください。
基準音には、先生が示す音、調子笛、基準音を出せるチューナーなどを使います。音名だけでなく、どの高さの音かも確かめます。低いCと高いCを比べながら同じ高さへそろえようとすると、一オクターブを取り違えます。
機器によっては、測れる音域と、スピーカーから出せる音域が違います。たとえばKORGのWT-30Sは、クロマティックモードの基準音発振をC4〜B4と案内しています。同じCのボタンだから一の糸のC3と同じ実音が出る、とは限りません。今回の練習では、対象の糸と同じ高さの基準音を用意して始めます。
糸巻きを動かす前に高低を判断する
一の糸の基準音を聴き、続いて一の糸を押さえずに鳴らします。比べるのは音の大きさや響きの派手さではなく、音の高さです。「同じように聞こえる」「三味線が低い」「三味線が高い」「まだ分からない」のどれかを、回す前に考えてみましょう。
分からなければ、基準音をもう一度聴いてから三味線を鳴らします。どちらかの音を長く覚えようとせず、二つを近い間隔で比べます。聴くたびに別の糸を鳴らしたり、基準音を替えたりしないようにします。
わかな津軽三味線教室の公開教材も、調子笛と三味線の音が合うかを感じ、違う場合は高低を判断して合わせる流れを説明しています。分からないまま左右へ糸巻きを動かすより、まず自分が何を聞き取れたかを確かめる練習です。
判断した向きへ少し調整して聞き直す
三味線の音が目標より低いと判断できたら、糸を張る向きへ少し調整します。高い場合は緩める向きです。回す向きは、手元の糸の巻き方で確認済みのものを使います。「右回り」のように見る方向が省かれた言葉だけで決めないでください。
糸を鳴らし、音が続いている間に調整して、変化を聞きます。音が消えたら回す動きを止め、もう一度鳴らします。Su Bunjaminさんの教材も、鳴らしてから振動中に調節する方法を説明しています。音を聞かずに回し続けると、目標に近づいたか、通り越したかが分からなくなります。
近づいたら一度止めて、基準音と開放弦を比べ直します。糸巻きを止めた後の音で判断するところまでが一組です。「低いと思ったのに離れた」と感じたら、そのまま回転を増やさず、動かしている糸と基準音を再確認します。
チューナーで確かめて耳へ戻る
耳で合ったと思ったら、基準音の再生を止めてから、自分の開放弦をチューナーで確かめます。確認用の機器は、基準音と同じピッチの設定にそろえておきます。表示の読み方は別に身につけ、音名と音域が違う状態で針の中央だけを目指さないようにします。
ずれが分かったら、自分が高いと思ったか低いと思ったかと照らし合わせます。その後、正しい高さに直した音を、基準音ともう一度聞き比べます。画面で正解を見て終えるより、修正後の音にも耳を戻すことが、この練習の目的です。
教室の方針によって機器を使う順序は違います。わかなの教材は、耳を使った練習の後にチューナーで答え合わせする方法も紹介しています。機器を使うこと自体を失敗と考えたり、初日から表示を使わずに完成させようとしたりする必要はありません。
二の糸と三の糸も個別の基準音で比べる
一の糸を確認できたら、二の糸の基準音へ替え、同じ順で聴き比べます。例の二上りならG3です。一の糸のC3を鳴らし続け、その高さへ二の糸をそろえるわけではありません。いま比べている一本の目標を使います。
三の糸の例はC4です。一の糸と音名は同じでも、一オクターブ上の基準音を使います。三本を確認したら、最初の一の糸に戻り、基準音と一つずつ聞き直します。耳の練習と、音が保たれているかの確認を重ねて進めます。
一本ずつの比較に慣れたら、一、二、三と鳴らした音の並びも聴きます。WT-30Sの製品説明には、一本ごとの発音に加え、三本を順に鳴らした調子の音を聞く機能があります。このような確認を使う場合も、調子と本数が自分の課題に合っているかを先に見ます。
音色の違いを音の高さの違いと混ぜない
調子笛の音と、撥で弾いた三味線の音は、響き方が違います。三味線どうしでも、糸が違えば同じ高さの音が同じ音色になるとは限りません。和楽器研究会は、別の糸で同じ音を出す異弦同音の説明で、糸の太さやさわりによる音色の違いを指摘しています。
基準音へ近づいた後も響きが同じにならないからといって、糸を張り続けないでください。高さの判断に迷ったら、表示や先生の音で確かめます。さわりの響きを変える作業と、開放弦の音高を合わせる作業を、同時に始めないようにします。
異弦同音を使う方法では、押さえた音の高さが正確であることが前提です。勘所をまだ安定して押さえられないうちに、その音だけを基準として開放弦を直すと、押さえ方のずれまで調弦へ持ち込んでしまいます。最初は開放弦と外部の基準音を比べ、異弦同音は次の課題として先生と確かめましょう。
分からない点を分けて次の練習へ残す
高低の判断ができない場合は、音域の違いか、音色に惑わされるのか、細かな差が分からないのかを分けます。「一の糸は比較できたが、三の糸は高低が分からなかった」のように記録すると、次に聴く課題を選べます。
糸巻きが戻る、固くて動かない、回すと構えが崩れる場合は、耳の問題とは別です。比較を続けず、楽器と操作の確認へ戻ります。耳で確かめる練習は道具を使わない我慢比べではありません。聞き取れたことを確認しながら、一本ずつ判断できる範囲を増やしていきます。
参考資料
高低の判断と答え合わせはわかな津軽三味線教室の公開教材、発音中の調整はSu Bunjaminの調弦解説を参照しました。
音色と異弦同音は和楽器研究会の教材、基準音の機能と音域はKORG WT-30Sの製品説明で確認しました。資料確認日は2026年10月3日です。