三味線の調弦は、課題で指定された基音と調子を確かめ、一の糸、二の糸、三の糸の順に音を合わせます。三本を合わせたら、一の糸へ戻ってもう一度確認します。糸巻きを回す前に目標をそろえ、一本ずつ音を出しながら進めると、どの音を直しているかを見失いにくくなります。
ここでは、右手に持った撥で糸を鳴らし、左手で通常型の糸巻きを回す、座った姿勢を扱います。糸と駒が正しく取り付けられ、三本を別々に鳴らせることが前提です。張り替え直後の組み付け作業や、動かなくなった糸巻きの修理は含めません。
最初に三本分の目標音を確かめる
譜面や教材で、まず本調子、二上り、三下りなどの調子名を見ます。次に、一の糸をどの高さにするかを確かめます。調子は三本の音の関係、基音はその出発点です。「本調子」とだけ書かれていても、一の糸をCにするかDにするかまでは決まりません。
指定が「何本」という本数で書かれている場合は、学んでいるジャンルの対応で音名を読みます。本数の数え方は義太夫などで異なります。さらに低いCと高いCのような取り違えを防ぐため、教材の見本音やオクターブの指定も確認してください。
説明の例として、課題の指定が「二上り、一の糸C3、二の糸G3、三の糸C4」だとします。これは条件を決めた例で、すべての三味線をこの高さにする指示ではありません。手元の課題が別の音なら、以下のC3、G3、C4を、その三本分の目標に置き換えて読みます。
三本分の目標音が書けなければ、糸巻きを動かす前に確認しましょう。「二上りは分かりますが、一の糸の高さが分かりません」と、分かっていることを分けて伝えます。三本とも何となく張ってから、合う組み合わせを探す方法にはしません。
糸と駒の準備を終えて構えを安定させる
手元の楽器に合う糸が張られ、駒が確認済みの位置と向きで置かれているかを見ます。三本の糸がそれぞれの溝へ収まっていることも確かめます。駒の位置を決める作業と調弦を同時に始めると、何を変えたために音が変わったのか分かりにくくなります。
座った構えでは胴を右の太腿に置き、右前腕の手首と肘の間で支えます。膝ゴムを使う場合は、胴と太腿が接する位置に敷きます。右手で撥を動かしても胴が滑らず、左手を糸巻きへ移しても楽器が傾かないか、回し始める前に確かめてください。
左手が糸巻きへ届かない、指を掛けると楽器が動く、右手で鳴らすたびに胴がずれる場合は、いったん止めます。構えを安定させてから調弦へ進みましょう。糸の近くをのぞき込むために顔を寄せすぎないことも、調弦時の注意点です。
通常型の糸巻きで使う手の支えを確認する
通常型の糸巻きは、差し込まれた部分の摩擦を利用して止まります。左手で持ち、糸巻きの軸を穴の金具である福林へ差し込む向きに支えながら回します。一の糸と三の糸では親指、二の糸では小指を、天神の内側の木枠へ掛ける持ち方が示されています。
回す動きの後に強く押し直すと、合わせた音が動くことがあります。回転中の支えを保ち、軸を上下へこじらないようにしてください。指が無理なく掛からない場合は、握る力を増やす前に、その楽器での持ち方を確かめます。
この説明は通常型に限ります。先端の金具を使う改良型などは、同じ押し込み方をしない製品もあります。仕組みが分からなければ、先に購入時の案内や製品名を確認してください。改良型に通常型の手順を移さず、その製品の説明を使います。
チューナーと見本音を準備する
チューナーを使う場合は、課題の音名を扱えるモードと基準ピッチを確認します。画面の440Hzなどの設定は、各糸の目標音とは別です。表示は音名とオクターブを先に見て、それが目標と一致してからメーターの高低を読みます。
見本音を聴いて合わせる場合も、一、二、三のどの音を聴いているかを確かめます。チューナーの内蔵マイクで自分の音を測る間は、見本の再生を止め、対象の糸だけを鳴らします。三本を同時に鳴らす方法と、一本の高さを測る方法を混ぜないようにしましょう。
一の糸を鳴らして基音を合わせる
まず最も太い一の糸を、棹の上で押さえずに鳴らします。一の糸を目でたどり、つながる糸巻きを確かめてから左手を掛けます。三本の位置だけを暗記するより、動かす糸とのつながりも見ると取り違えを防げます。
右手の撥で一の糸を鳴らし、今の音を目標と比べます。この例の目標はC3です。現在の音が低いなら糸を張る向き、高いなら緩める向きへ調整します。張る向きと緩める向きは、手元の糸の巻かれ方と音の変化で確かめます。見る方向を省いた「右へ」「左へ」という指示だけで決めないでください。
音が聞こえる間に小さく動かし、変化を確かめます。音が消えたら回す動きを止め、再び鳴らします。無音のまま回していると、目標を越えたかどうかを判断できません。回転数を覚えるより、発音と音の変化を一組にして進めましょう。
目標へ近づいたら動きを小さくし、合ったところで回転を止めます。そのまま一の糸を鳴らし直し、止めた位置でもC3を保っているかを確かめます。目標を越えた場合も、まず止めて現在の音を確認してから、必要な向きへ直します。
二の糸を課題で指定された音へ合わせる
一の糸が確認できたら、次は二の糸です。二の糸につながる糸巻きを確かめ、通常型では小指を木枠へ掛ける持ち方へ替えます。一の糸を回した手の形のまま、別の糸巻きを無理に握らないでください。
二の糸だけを鳴らし、課題の目標と比べます。今回の二上りの例ならG3です。一の糸がC3だから二の糸もCへそろえる、という進め方ではありません。最初に控えた三本分の目標を、一つずつ使います。
今の音がG3より低いか高いかを確かめ、鳴っている間に少し調整し、止めて鳴らし直します。一の糸と同じ確認の流れですが、同じ回転量を使うわけではありません。二の糸の音と、糸巻きが止まっていることを確かめてから三の糸へ進みます。
三の糸は高いほうの同名音かも確かめる
三の糸は最も細い糸です。つながる糸巻きを確かめ、一の糸と同様に親指を木枠へ掛ける持ち方で支えます。三の糸だけを鳴らして、目標と現在の音を比べます。
今回の目標はC4です。一の糸のC3とは一オクターブ離れているため、Cの文字だけが同じでも確認は終わりません。見本音やオクターブの指定と比べ、どちらのCを目指しているのかを確かめてください。音域が判断できないまま、別のCを探して張り続けないようにします。
三の糸も、鳴らす、音を確認しながら小さく動かす、止めて鳴らし直す、という順で進めます。目標音になり、糸巻きを止めた状態でも音を確認できたら、三本全体の確認へ移ります。
三本を合わせたら一の糸へ戻る
最後に、一の糸、二の糸、三の糸をもう一度順に鳴らします。この例ではC3、G3、C4です。確認済みの目標を一つずつ照合し、前に合わせた音が今も保たれているかを聞き直します。三の糸が合ったことだけを、三本すべてが合った証拠にしないでください。
二上りと本調子では、一の糸と三の糸は一オクターブです。三下りは同じ関係ではないため、どの調子でも最後に二つの糸をオクターブへそろえるわけではありません。最後の確認にも、今回の課題の調子と三本の目標を使います。
一本だけずれていたら、その糸の現在の音を確かめてから直します。直した後は、三本を順に鳴らして確認します。同じ糸がすぐ戻るなど、止まり具合に問題がある場合は、同じ調整を繰り返さず、次の点検へ切り替えましょう。
音合わせを続けずに止める状態
糸巻きが固くて動かないときは、強く握って回そうとしないでください。無理に回すと折れることがあります。これは目標音までの微調整とは別の問題です。普段の調弦に工具や滑り止めを追加して対処する前に、楽器店へ状態を伝えます。
手を離すと戻る場合も、押し込み不足だけが原因とは限りません。巻かれた糸が糸倉の壁へ当たり、糸巻きを押し戻す例があります。正常な持ち方で保持できなければ、巻かれた部分や糸巻きの状態を確認してもらいましょう。この記事の手順から、そのまま巻き直しや修理へ進まないでください。
音の判断で止まったなら、目標音と聞こえた音、チューナーの設定と表示を控えます。操作で止まったなら、どの糸巻きか、回すときか止めた後か、楽器がどの動作で動いたかを伝えます。「音が合わない」の中身を分けると、次に教わる箇所がはっきりします。
調弦の記録には、曲名、調子、三本の目標音、使った見本や機器の設定を残します。次の練習でも、同じ条件を確認してから一の糸へ戻ります。目標を確認し、一本ずつ合わせ、三本を聞き直す流れを毎回の準備として身につけていきましょう。
参考資料
基音と三調子の音の関係は松永鉄九郎 三味線のしおり 調弦法、鳴らす順序と振動中の調整はSu Bunjaminの調弦解説を参照しました。
座奏の支持は教育芸術社 中学生の器楽 音声テキスト、通常型の持ち方は日本和楽器製造 三味線カタログと菊岡中むらの回し方の解説を参照しました。機構の例外は亀屋邦楽器の改良型の説明で確認できます。
準備と安全上の注意はスズキ ききょう取扱説明書、音高と張りの関係は三萃園の調弦解説、表示の読み方はKORG CA-2取扱説明書を参照しました。糸巻きの固着と糸の巻き方による保持不良は、菊岡中むらの説明を確認しています。