三味線の音程が合わないと感じたら、まず指を離した開放弦を確かめます。開放弦から違うのか、押さえた音だけ違うのかで、確認する順序が変わるためです。見本と条件をそろえたうえで、調弦、譜面、押さえる位置を一つずつ見直しましょう。
ここでは、すでに調弦と基本の押さえ方を習った人が、迷った音を切り分ける方法を説明します。糸巻きの回し方は「三味線の調弦方法」、文化譜の基本は「三味線の勘所」の記事で確認できます。押さえる力や指の角度を新たに決める手順ではありません。
見本と同じ条件で比べる
最初に、曲名と確かめたい箇所を決めます。長い曲を最初から弾き直すより、「冒頭の一節の、二の糸を押さえる音」のように対象を絞ると、同じところを比べられます。譜面のページと段、教材の見本が始まる位置も控えておきます。
次に調子と基音を見ます。本調子か二上りかだけでなく、一の糸をどの高さに合わせる指定かを確かめてください。同じ本調子でも、見本が一の糸D、自分がCなら、同じ位置を押さえても同じ高さにはなりません。録音へ近づけようと指の位置をずらす前に、開放弦の条件をそろえます。
基音が本数で書かれている場合は、稽古で指定された音名や見本音との対応を確かめます。音名にはオクターブ違いもあるので、Cなどの文字だけでは迷うときは、指定された見本音と組み合わせて確かめましょう。出所の分からない録音を、自分の稽古の基準と決めるのは避けます。
三本の開放弦を先に確かめる
左手で糸を押さえず、一の糸、二の糸、三の糸を一本ずつ鳴らします。確認中は見本の再生を止め、自分がどの糸を鳴らしているかをはっきりさせます。調弦後にも一の糸へ戻り、最初と同じ音を保っているかを確かめます。
チューナーを使う場合は、調子や本数、基準ピッチなど、機器にある設定を先に見ます。メーターの位置と、表示している音名は別の情報です。目標と違う音名のまま針だけ中央に来ても、課題の音を確認したことにはなりません。
開放弦が見本と違う間は、押さえる位置の修正へ進まず、習った手順で調弦を確かめます。一方、一音を鳴らしているのに表示が定まらないときは、数値を追って糸巻きを動かし続けないようにしましょう。周囲の音や機器の測定条件を確認し、同じ糸を鳴らし直して、比較できる状態に戻します。
譜面では糸と数字を別々に読む
開放弦がそろったら、迷った音の譜面を見直します。文化譜なら、まずどの糸の線かを確認し、その上の勘所の数字を読みます。さらに指や奏法の指定を確認します。「2」とだけ読まず、「二の糸の2」のように糸と位置を組み合わせて捉えます。
同じ数字が書かれていても、糸が違えば鳴る音は変わります。また、勘所の数字は指の番号ではありません。いつも使う指から推測して譜面を読み替えると、糸や位置の取り違えを見つけにくくなります。
文化譜以外の譜面では、数字が階名を表す場合もあります。別の譜本にある同じ数字を、そのまま同じ押さえ場所として比べず、譜式と凡例を確かめてください。曲の途中に調子を変える指示があれば、比べている箇所が変更前か変更後かも見ます。
押さえた音は一つに絞って比べる
譜面の読みが確かめられたら、該当する糸の開放弦を鳴らし、続けて習った押さえ方で問題の音を出します。その後で指を離し、もう一度開放弦を鳴らします。前後の開放弦が同じかも見ると、途中で調弦が変わった可能性と、押さえた音の違いを分けて考えられます。
比較には、同じ条件の見本で示された一音を使います。最初は「見本より高く聞こえる」「低く聞こえる」「違いは感じるが高低を決められない」のどれかを残せば十分です。判断できないものを無理に高いか低いかへ振り分ける必要はありません。
本調子の文化譜には、一の糸の4と二の糸の開放弦を同じ高さとして比べる方法があります。すでに4を習っていて、開放弦の調弦を確認できている人は、この二音を順に鳴らす比較ができます。和楽器研究会「はじめての三味線教室」の教材でも使われている音の組です。
この比較で一の糸の4が合わない場合は、調弦済みの二の糸をすぐ動かさず、まず4の位置を確認します。逆に4そのものがまだ定まっていないときは、その音だけを基準にして二の糸を合わせ直すと、どちらを確かめているのか分からなくなります。基準として確かめた音を一つ残して比べましょう。
音の高さと音色の違いを分けて聴く
違う糸で同じ高さを出しても、音色まで同じにはなりません。はじめての三味線教室は、異弦同音の練習で糸ごとの音色の差にも気づけると説明しています。細い、太い、響きが長いといった印象だけで、音程が違うと決めないようにします。
チューナーの数値も判断の助けになりますが、機器が採用する音律や設定の条件があります。たとえば三味線用のKORG WT-30Sは、仕様に平均律と記されています。中央表示は、その機器の基準へ近いことを確認する手掛かりです。その表示だけで、歌や語りと合わせたときの音楽的な適否まで決めることはできません。
数値では近くても見本と違って聞こえるときは、「高低の違いなのか、響き方の違いなのか」を分けて稽古で確認します。すべての音を一律に何セント高くする、低くするといった補正を、この確認のために加える必要はありません。
目印が合わないときは駒を動かす前に止める
棹の目印は、押さえる位置を探す助けになります。ただし松永鉄九郎氏の教材では、勘所の位置は駒の位置や高さによって多少変わるとされています。いつもの印に指を置いたという理由だけで、音の確認を終えないようにしましょう。
以前と同じ位置が合わなくなったと感じたら、直前に駒を替えたか、置き直したか、楽器の調整を受けたかを思い返します。変化が分からないまま、駒を前後へ動かして音を探すことはしません。元の位置を見失うと、ほかの勘所も含めて確認し直す必要が出てくるためです。
開放弦を保てない、複数の勘所で急に違いが出る、駒の置き方に自信がない場合は、楽器と普段の道具を見てもらいましょう。「左手が悪い」と結論を出す前に、変えた部品や起きた時期を伝えると、楽器の状態も確認できます。
次の稽古に残す記録を具体的にする
記録には、曲と箇所、調子と基音、糸と勘所、開放弦の状態、押さえた音の違いを残します。たとえば「本調子、一の糸Cの見本。二の糸の開放弦は確認済み。一の糸の4を比べると高く聞こえる。駒は前回から替えていない」と書けば、何を比べたのかが伝わります。これは書き方の例で、Cへ調弦する指示ではありません。
高低が分からない場合は、そのまま記録して構いません。録音を使うなら、自分の演奏について許可された方法で、比較した開放弦と問題の音を続けて残します。教師やほかの人の演奏を録音するときは、事前に許可を確かめてください。
見本の条件、開放弦、譜面、押さえた音の順に確かめると、質問も具体的になります。同じ箇所を何度も弾いて迷い続けるより、どこまで合っていて、どこから分からないかを残すことから始めましょう。
参考資料
基音、異弦同音の対応 和楽器研究会 三味線のチューニング3 異弦同音の活用。
譜式と駒の影響 松永鉄九郎 三味線のしおり 唱歌と譜の種類。機器の測定条件 KORG WT-30S 仕様、チューナーの表示について。