日本の地歌や箏曲で使われる「三絃(さんげん)」は、三味線を指す呼び方です。「三弦」とも書きます。ただし、中国の楽器や雅楽の話にも「三弦・三絃」が登場するため、文字だけを見て、いつも日本の三味線だと判断することはできません。
読み方にも幅があります。「三味線」は「しゃみせん」のほか「さみせん」とも読みます。楽器の名前を確かめるときは、ふりがな、扱っている音楽の種類、資料の時代や地域を一緒に見ると迷いにくくなります。
三絃は地歌や箏曲で使われる三味線の呼び名
国語辞典では、三絃・三弦を三味線の別名とし、地歌や箏曲ではその分野の正式な呼び名として扱っています。文化デジタルライブラリーの三曲の解説も、「三絃」に「さんげん」という読みを付け、地歌三味線を指すことと、「三弦」とも書くことを説明しています。
たとえば公演案内に「三絃・箏・尺八」と並んでいれば、日本の三曲の演奏で、三味線、箏、尺八を組み合わせるという意味です。三絃という名の未知の楽器が、三味線とは別に加わるわけではありません。
ただし、呼び名だけで流派や楽器の寸法までは決まりません。日本三曲協会の教室検索には、生田流にも山田流にも「箏/三絃」の区分があります。「三絃と書いてあるから生田流」といった判断はできず、その次に流派名や演目を確かめることになります。
公演資料では楽器欄と曲の分類を合わせて読む
具体例として、文化デジタルライブラリーの箏曲「葵の上」の紹介を見てみましょう。2003年1月26日の国立劇場小劇場の公演について、箏の出演者とは別に、鳥居名美野の担当が「三絃」と記されています。本文には、山田流箏曲の作品であることも説明されています。
この場合は、出演者欄の「三絃」と、本文の「山田流箏曲」を合わせて読むと、何の音楽の、どの楽器を担当する人なのかが分かります。用語辞典の短い意味だけで止めず、実際の公演の中で使われる場所を確かめると、呼び方が身近になります。
「三曲」も一緒に出てきやすい言葉です。三曲は地歌・箏曲・尺八楽・胡弓楽の総称で、三曲合奏は三絃と箏に尺八や胡弓を加える合奏をいいます。「三絃」はここでは楽器の呼び名、「三曲」は音楽の分野や合奏に関わる呼び名です。三曲の「三」を三味線の糸の本数と結びつけないようにすると、説明を読み違えずに済みます。
弦と絃の違いだけで楽器を分けない
「弦」も「絃」も、音読みは「ゲン」です。漢字ペディアは「絃」を楽器に張る糸の意味とし、「弦」をその書きかえ字として示しています。「弦」の側にも、楽器の糸という意味が載っています。三絃と三弦は、この意味の対応をもつ表記です。
そのため、「三絃は古い楽器で、三弦は新しい楽器」と区別したり、文字の違いから奏法を決めたりはできません。資料名や団体の表記を写す場合は、まず元の字を保つと照合しやすくなります。自分の説明文では表記をそろえ、必要なら最初に「三絃は三弦とも書きます」と補う方法があります。
一方、「弦」には弓に張る糸や、弓張り月に関わる意味もあります。どの熟語でも弦と絃を自由に入れ替えられる、ということではありません。三味線の呼称を読む場合と、漢字のすべての用法を考える場合は、範囲を分けておくと整理できます。
中国の三絃と雅楽の三弦には別の意味がある
「三弦」の辞書項目には、日本の三味線という意味に加えて、中国の弦楽器も載っています。文化デジタルライブラリーの組踊の解説は、中国の楽器を「三絃(サンシェン)」と表記しています。日本の楽器には絃、中国の楽器には弦を使う、という決まりではないことが、この実例から分かります。
同じ組踊の解説では、沖縄の楽器は「三線(サンシン)」です。三絃、三弦、三線は字が似ていますが、中国や琉球の音楽を扱う文章では、地域名とふりがなが見分ける手がかりになります。楽器の形や伝来の詳しい比較は、三味線・三線・三弦の違いを扱う記事に分けて考えると読みやすくなります。
さらに雅楽の「三弦」には、琵琶・箏・和琴という三種類の弦楽器をまとめて呼ぶ意味があります。この場合は一丁の三味線でも、中国の一種類の楽器でもありません。雅楽という見出しや、琵琶・和琴といった周囲の語を見れば、使われている意味を絞れます。
しゃみせんとさみせんはどちらも辞書にある
「さみせん」は、「しゃみせん」を読み間違えた形として片付けられる言葉ではありません。『デジタル大辞泉』にも『精選版日本国語大辞典』にも「さみせん」の見出しがあり、同じ楽器を指しています。音の違いだけから、別の楽器や別の流派だと考える必要はありません。
『精選版日本国語大辞典』は「さみせん」の用例として、1632年の『尤双紙』を挙げています。これは、その表現が資料に残ることを示す例です。1632年に初めて言葉が生まれたことや、当時の全地域でその読みが使われていたことまで証明するものではありません。
現代の一般向けの文章なら、まず「三味線(しゃみせん)」と示すと伝わりやすくなります。古い資料名や、相手が用いている呼称を紹介するときは、その読みを確かめたうえで残すと、原資料との対応を追いやすくなります。
古い本では三絃をさみせんと読む例もある
文字と読みが一対一で決まらないことは、古書の目録にも表れています。国書データベースの東京藝術大学附属図書館の画像一覧には、『三絃獨諬古初編』という資料に「さみせんひとりげいこしょへん」という読みが付いています。書誌IDは100376759です。
ここで確かめたのは目録の読みです。原本に同じふりがなが印刷されている、という意味ではありません。それでも、「三絃の文字を見たら必ずさんげんと読む」という覚え方では、こうした資料名に対応できないことが分かります。書名は図書館や研究機関が付けた読みも確認すると安心です。
短く「三味」と書く場合もあります。辞書では「しゃみ」「さみ」を三味線の略として載せています。音楽の文章でこの表現に出会ったら、前後に唄や演奏の話があるかを見てください。略語を見つけても、元の資料名まで勝手に三味線へ書き換える必要はありません。
迷ったら読みと音楽の種類を一緒に確かめる
三味線と三絃の違いを調べるときは、まず日本の地歌・箏曲の話なのか、中国・琉球・雅楽の話なのかを確かめます。そのうえで、ふりがな、曲名、流派名、出演楽器の欄を読みます。古い本なら、資料名と目録の読みも照らし合わせます。
検索で見つからない場合は、「三味線」「三絃」「三弦」の表記を替え、曲名や人名を一緒に入れる方法があります。ただし、同じ検索結果に違う地域の楽器が混ざることもあります。名前が似ていることと、同じ楽器や同じ伝承を指すことを分けて読むのが、呼び名を理解する近道です。