地唄(じうた)は、上方で育った三味線の歌曲です。三曲合奏(さんきょくがっそう)は、三味線と箏に、尺八または胡弓(こきゅう)を合わせて演奏する形をいいます。地唄という音楽を三曲合奏で聴くことはありますが、二つの名前は同じ意味ではありません。
この違いが分かると、同じ曲名なのに楽器が違う演奏や、三味線だけで弾き歌いする演奏を見ても迷わずに済みます。まず地唄の歌と楽器の関係を押さえ、次に合奏の組み合わせと、その変化を見ていきましょう。
地唄は三味線で弾き歌いする音楽
地唄では、三味線を弾く人が歌も受け持つのが基本です。一人が弾き歌いするほか、三味線どうしや、箏などとの合奏でも演奏されます。
この分野の三味線は「三絃(さんげん)」とも呼び、「三弦」と書くこともあります。公演の出演者欄に「三絃」とあれば、地唄の三味線を担当する人だと読めます。また、「地歌」と「地唄」は表記の違いで、別のジャンルを指しているわけではありません。
上方(かみがた)は、京都や大坂などを指す呼び方です。地唄は江戸時代に座敷のような比較的小さな空間で演奏され、上方舞の伴奏にも用いられました。地唄という名前は、江戸で生まれた三味線音楽に対して、自分たちの土地の歌という意味で使われたとされています。したがって、各地方の民謡を一括して地唄と呼ぶわけではありません。
楽器は中棹を使うのが一般的ですが、流派によっては細い京三味線を用い、撥の形にも違いがあります。地唄という曲の分野、三絃という楽器の呼び方、棹や撥の仕様は、分けて捉えると混同を防げます。
三曲という総称と三曲合奏という編成
「三曲」は、地唄、箏曲、尺八楽など、関わりの深い音楽をまとめる言葉です。胡弓の音楽も含まれます。三つの曲を続けて演奏するという意味ではなく、地唄や箏曲を演奏する場や、楽器どうしのつながりに関わる名称です。
これに対して「三曲合奏」は、三絃、箏、尺八、または三絃、箏、胡弓という三種類の楽器による合奏を指します。「三曲の演奏会」と書いてあるからといって、すべての曲で必ず三種類が同時に鳴るとは限りません。曲名の下の出演者欄を見ると、その演奏の楽器を確認できます。
たとえば三絃二人の合奏は、地唄の合奏として成り立ちます。そこに箏や尺八がいなくても地唄であることは変わりません。音楽の分類と、その日に採用された編成は別々に確認します。
三絃と箏が深く関わるようになった理由
地唄と箏曲のつながりには、音楽家の活動が関わっています。当道座(とうどうざ)という組織に属した視覚障害のある音楽家たちは、三絃と箏の両方を学び、演奏していました。地唄の曲に箏を合わせることも、箏曲に三絃を合わせることも行われ、曲や演奏する人を共有していきます。
合奏の箏は、三絃とほぼ同じ旋律を弾くだけの役割にとどまりませんでした。三絃とは異なる動きを持つ旋律も発達し、箏のパートがあることを前提に作られる曲も現れます。曲名だけで「これは三味線の曲」「これは箏だけの曲」と分けきれないのは、そうした交流があるためです。
地唄と生田流箏曲は特に関係が深く、「地歌箏曲」とまとめて呼ばれることもあります。ただし、箏で演奏する曲がすべて地唄というわけではありません。地唄とのつながりを知ることと、箏曲全体を同じ範囲に収めることは分けて考えます。
胡弓との合奏から尺八入りの合奏へ
江戸時代に広く行われた三曲合奏は、三絃、箏、胡弓の組み合わせでした。胡弓は弓で弦をこすって鳴らす楽器です。三絃や箏を弾く音楽家が胡弓も演奏し、合奏の中で組み合わせていました。
明治時代以後は、胡弓に代わって尺八を加えた合奏が盛んになります。背景には、1871年に当道座や普化宗の制度が廃止され、音楽家の活動の場が変わったことがあります。尺八の演奏家が合奏に積極的に加わるようになったと説明されています。
三曲合奏の編成の変化
- 江戸時代に広く行われた編成:三絃 + 箏 + 胡弓
- 明治時代以後に盛んになった編成:三絃 + 箏 + 尺八
この整理は、よく演奏される編成の変化を示しています。尺八入りの合奏が明治になって初めて生まれた、という意味ではありません。日本三曲協会の解説は、江戸時代からの先行例と、明治以後の普及を分けています。また、現在も胡弓入りの三曲合奏は演奏されています。古い編成が一斉に消え、新しい編成に置き換わったと考えないことが大切です。
本手と替手は旋律の役割を表す
曲の中心となる旋律を「本手(ほんて)」、本手と合わせるための別の旋律を「替手(かえて)」といいます。替手は、本手の動きを細かく飾ったり、異なる旋律を組み合わせたりする役割を担います。本手を聴きながら替手に耳を移すと、同じ曲の中に別の動きが重なっていることを追えます。
本手と替手は、楽器の種類の名前ではありません。三絃どうしの合奏にもあり、箏の合奏でも使われます。「三味線が本手で、箏はいつでも替手」と固定して考えると、曲や流派による違いを見落としてしまいます。出演者欄や解説に担当が記されていれば、その演奏での分担を確かめてみましょう。
また、三絃は撥で、箏は指にはめた爪で弦を弾きます。尺八は息で鳴らす管楽器です。合奏を聴くときは、楽器名を音だけで当てようとする前に、映像で音を出している人と楽器を対応させると、旋律の重なりを追いやすくなります。
歌の間に広がる手事を聴く
地唄には、歌と歌の間に、楽器だけで長く演奏する「手事(てごと)」を持つ曲があります。このような曲を「手事物」と呼びます。声が止まっても曲が終わったわけではなく、その間に器楽のまとまった展開を聴くことになります。
初めて手事物を聴くときは、最初から細かい音をすべて追うより、歌がある部分、楽器だけになる部分、歌が戻るところという大きな流れをつかむとよいでしょう。次に同じ部分を聴き、三絃を追うときと箏を追うときで注意を移すと、一度目に聞き取れなかった動きを探せます。
ただし、地唄のすべてが長い手事を持つわけではありません。弾き歌いを基本とする地唄の中にも、器楽を大きく展開する曲や、浄瑠璃を取り入れた曲などがあります。一つの手事物だけで、地唄全体の長さや雰囲気を決めないようにしましょう。
公式の演奏例で編成と歌の担当を比べる
笹の露で弾き歌いと手事物を知る
日本芸術文化振興会の「声の表現」は、「笹の露」を三絃、箏、尺八による手事物の例として紹介しています。歌を楽器の演奏者が受け持つことと、長い器楽部分を持つことを、一つの曲で考えられる入口です。
ページの解説によると、掲載映像の部分では三絃の演奏者が歌い、曲中には箏の演奏者が歌う部分もあります。三味線のある合奏だから三味線の人だけが歌う、と決めず、声が始まるたびに誰が歌っているかを確かめてみてください。抜粋映像で曲全体の手事の位置まで分からない場合は、全曲の音源と区別して聴きます。
八重衣と長恨歌曲で三つ目の楽器を確かめる
「三曲」の解説ページには、2017年1月の国立劇場公演「八重衣」と、2020年1月の「長恨歌曲」の演奏資料があります。前者は三絃、箏、尺八、後者は三絃、箏、胡弓という編成です。胡弓入りの三曲合奏も現在の公演につながっていることを、実際の例で確かめられます。
二つの演奏を見るときは、まず共通する三絃と箏を探し、次に尺八と胡弓に目を向けます。息で鳴らす楽器と弓で鳴らす楽器では、奏者の動きも異なります。楽器の担当を確認してからそのパートを聴くと、三曲合奏という名前の中にある編成の幅を捉えられます。曲も演奏者も違うため、聞こえ方の違いを楽器一つの効果だけで説明する比較ではありません。
千鳥で三絃どうしの演奏を見る
「地歌」の解説ページには、2022年1月の国立劇場公演「千鳥」が掲載され、三絃の出演者として二代目富山清琴と富山清仁が記されています。三種類の楽器がそろう演奏だけでなく、三絃どうしの地唄にも触れたいときの例です。
聴いた後は、曲名と一緒に、楽器の組み合わせと歌っていた人を控えておくと、別の演奏を探しやすくなります。同じ曲名を見つけたら、楽器や担当が同じかを比べてみましょう。地唄と三曲合奏の関係は、名前を暗記するだけでなく、こうした演奏の違いを通して理解できます。
参考資料
地唄と合奏の基本 日本芸術文化振興会 地歌・三曲、日本三曲協会 三曲とは。
旋律と歴史 日本三曲協会 三味線楽及び地歌とは・尺八楽とは。