三味線を聴くときは、最初からジャンルや奏法を全部覚えなくても大丈夫です。まず一つの演奏を選び、誰が声を出し、誰が三味線を弾いているかを確かめます。そのうえで、声が入るところや楽器だけになるところへ注意を向けると、曲の中の動きを追いやすくなります。
ここでは、正規に公開された演奏資料を使い、同じ演奏を聴き直す手順を紹介します。音楽の分類や歴史は関連記事に譲り、歌、語り、独奏、合奏のそれぞれで、何を手掛かりに聴くかを具体的に考えます。
再生前に曲名と出演者を確かめる
最初の一曲には、曲名、演奏者、収録公演などが書かれた公開元を選びましょう。日本芸術文化振興会の文化デジタルライブラリーは、演奏映像と解説、出演者を同じページで確認できます。洗足学園音楽大学の伝統音楽デジタルライブラリーにも、実演家の解説と演奏例があります。
検索結果の動画タイトルだけでは、三味線の独奏か、歌の伴奏かが分からない場合があります。出演者欄で「唄」「浄瑠璃」「三味線」「三絃」などの担当を読み、ほかに箏や笛、打楽器が入るかも確かめます。三絃は、ここで扱う地唄の資料では三味線の呼び名です。
公開映像が曲全体か抜粋かも見ます。途中の場面から始まる資料なら、再生直後に声が聞こえても、その曲全体が声で始まるとは限りません。収録年月と公開年月も分けておくと、別の演奏と比べるときに混同しにくくなります。
一回目は全体を聴き二回目は対象を一つ選ぶ
まずは公開されている範囲を、そのまま聴いてみます。途中で知らない言葉が出ても、すべて調べて止める必要はありません。声が続く、楽器だけになる、音が重なる、といった変化の中から、気になったところを一つ選びます。
二回目は、その箇所の少し前から再生します。声を追う回と三味線を追う回を分けると、同時に鳴っている音を整理しやすくなります。映像がある場合は、発音する手の動きと聞こえる音の関係も手掛かりになりますが、画面に映っていない奏者の音が入ることもあります。
記録は「声が終わった後に三味線が続くところ」のような短い言葉で構いません。再生位置を控えるなら、そのページと動画の名前も一緒に残します。別の公演や編集された動画に、同じ分秒をそのまま当てはめないようにしましょう。
歌のある演奏では声の前後を聴く
長唄の例として、文化デジタルライブラリーの「石橋(しゃっきょう)」を選べます。2023年10月の国立劇場公演の資料で、唄、三味線、上調子、笛、小鼓、大鼓、太鼓の出演者が記されています。複数の音が入る演奏なので、初めは声と三味線の二つに注意を絞ってみましょう。
一つの歌の句を追い、その声が終わる前後を続けて聴きます。声と三味線が重なるところ、声が休んで楽器が続くところを探すと、歌の伴奏という言葉だけでは捉えにくい三味線の動きが見えてきます。器楽がまとまって続く部分は、長唄では合方と呼ばれます。
次に、同じ箇所で打楽器へ注意を移します。三味線の音だと思っていたものが別の楽器かもしれないと考え、出演者欄と映像を行き来します。最初から音色だけで全部を当てる練習にはせず、一つずつ確かめれば十分です。
語りではせりふと情景の切り替わりを追う
義太夫節は、語り手の太夫と三味線が物語を進めます。文化デジタルライブラリーには、2021年10月の「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋の段」があります。人形を伴わない素浄瑠璃の資料で、語りは当時六代目豊竹呂太夫、三味線は鶴澤清志郎と記されています。
聴く前に、ページの詞章を読み、せりふの部分と、その前後を説明する地の文を見つけておきます。全部を暗記せず、せりふから地の文へ移る箇所を一つ選ぶと、声の表現と三味線の関係を追う目印になります。
一回は語りに注意を向け、次はその切り替わりの前後で三味線を追ってみましょう。三味線の音がどこに入り、声とどう重なるかを聴きます。速さや音量だけを比べず、音が出るまでの間も含めて一続きに聴くのが、この例での見方です。
短い解説付きの例がよければ、文楽編の「心情を弾く」に進めます。そこには「泣き」や「嘆き」を表す演奏例と、場面の説明があります。先に説明を読んでから音を聴き、次に説明を見ずに聴くと、場面を知ることが自分の受け取り方にどう関わるかも考えられます。
独奏では旋律の区切りを一つ見つける
三味線だけを聴きたいときは、洗足学園音楽大学の津軽三味線教材が入口になります。山中信人による演奏と話が掲載され、「津軽よされ節」や「津軽じょんがら節」などを選べます。「津軽じょんがら節」の掲載演奏は新節と明記されています。
独奏では声の切れ目を目印にできないため、音のまとまりに注意を向けます。同じような形が繰り返されると感じたところ、低い音から高い音へ移ったと感じたところなど、自分が気づいた変化を一つ控えてみましょう。最初から正式な曲の区分名を付ける必要はありません。
気になった箇所を、直前から続けて再生します。細かな音だけに注目した回と、全体の進み方を追う回を分けると、自分が何に惹かれたのかを言葉にしやすくなります。歌付きの別録音と比べる場合は、同じ曲名でも演奏の形が違うことを先に確かめます。
合奏では一人の担当を選んで聴く
三曲のページにある2017年1月の「八重衣(やえごろも)」は、箏が二代目米川文子、三絃が二代目富山清琴、尺八が三代目川瀬順輔という編成です。出演者欄を読んでから映像を見ると、どの人の音を追おうとしているかを決められます。
初めは三絃を担当する人へ注意を向け、次に箏や尺八へ移して、同じ箇所を聴き直します。すべての音を分離して聞き取れなくても、どこで音が重なっているように聞こえたかを残せば構いません。分からない音を無理に三味線だと決めないことも、聴き比べでは役立ちます。
同じページには、2020年1月の「長恨歌曲(ちょうごんかのきょく)」もあります。こちらは箏、三絃、胡弓による編成です。二つを聴く場合は、曲も奏者も変わっていることを踏まえ、まずは楽器の組み合わせを聴く比較にします。聞こえた差を、尺八と胡弓の違いだけで説明しないようにしましょう。
次の一曲は気になった点から選ぶ
演奏を一つ聴いた後は、曲名、出演者、気になった箇所を残します。「歌が終わった後の三味線をもう一度聴きたい」「同じ曲の別の編成を探したい」と書ければ、次に調べる対象が具体的になります。好き嫌いを急いで決める必要はありません。
別の録音を選ぶときは、曲の同じ部分か、独奏と伴奏のどちらか、編成や収録条件が同じかを確認します。録音の音量やマイクの位置にも違いがあるため、再生したときの大きさだけで奏者の特徴を決めないようにします。
正規公開のページは、解説と演奏を一緒に残せる形でブックマークすると便利です。音源を切り出して再配布するのではなく、公式ページのリンクを使います。配信の有無や利用条件は変わるため、聴くときに公開元の案内を確認してください。
参考資料
日本芸術文化振興会 文化デジタルライブラリー 長唄 石橋、義太夫節 熊谷陣屋の段、文楽 心情を弾く、三曲 八重衣と長恨歌曲。
洗足学園音楽大学 伝統音楽デジタルライブラリー 津軽三味線。