同じ三味線でも、歌を支える演奏、人形芝居の物語を動かす演奏、三味線だけで聴かせる演奏があります。長唄、地唄、義太夫節、民謡といった名前は、そうした音楽の違いを表しています。
違いをつかむには、「誰が歌うのか」「三味線は声とどう関わるのか」「踊りや芝居を伴うのか」の三つを見てみましょう。音色だけで名前を当てようとしなくても、演奏の仕組みが分かると、聴きたい音楽を探しやすくなります。
音楽のジャンルと、楽器の種類は別のもの
長唄や義太夫節は音楽の名前です。一方、細棹・中棹・太棹は、棹の太さなどに着目した楽器の呼び方です。たとえば長唄には細棹、義太夫節には太棹が使われますが、「太棹の演奏はすべて同じジャンル」ということにはなりません。
また、同じ三味線音楽でも、歌う人と弾く人が分かれる場合と、一人で弾きながら歌う場合があります。三味線の本体だけを見るより、声やほかの楽器との組み合わせまで見るほうが、音楽の違いを理解できます。
歌いものと語りものは、何を伝えるかの違い
歌いものでは、旋律やリズムによって情景や気持ちを表すことに重きが置かれます。長唄や地唄がその例です。語りものでは、登場人物の言葉や出来事を通して物語を伝えます。義太夫節、常磐津節、清元節などが含まれます。
ただし、語りものは普通の話し声だけで進むわけではありません。音の高低やリズムがあり、清元節のように歌う要素が強い音楽もあります。反対に、地唄には浄瑠璃を取り入れた曲もあります。この分類は、声の有無を分けるものではなく、音楽を聴くときの大まかな手がかりです。
長唄:歌と三味線、それぞれの聴かせどころがある
長唄は歌舞伎舞踊とともに発展し、後には音楽そのものを鑑賞するための作品も作られました。歌を担当する唄方と、三味線方が分かれて演奏します。笛や鼓、太鼓による囃子が加わることもあれば、歌と三味線で演奏することもあります。
歌の部分では、一人が歌う場面と、複数の唄方が同じ旋律を歌う場面があります。三味線も歌に付いているだけではなく、声が入らない部分でまとまった音楽を聴かせます。そのため、歌が止まっても曲の流れは続いています。
歌い出す前に三味線が弾く部分を「前弾(まえびき)」、歌の途中に入る短い部分を「合の手」、長くまとまった部分を「合方(あいかた)」と呼びます。呼び分けが厳密でない場合もありますが、まずは「歌の前か、途中か」「短いやり取りか、まとまった演奏か」と考えると分かりやすいでしょう。
初めて聴くときは、歌が終わった直後もそのまま三味線を追ってみてください。声を受けて短く入る音と、三味線だけで展開する部分の両方に気づくと、長唄の楽しみ方が広がります。
地唄:弾き歌いと、異なる旋律の重なりを楽しむ
地唄は上方で育った三味線の歌曲で、「地歌」とも書きます。この分野で使われる「三絃(さんげん)」は、三味線の呼び名です。演奏者が三絃を弾きながら歌う形が基本で、三絃同士のほか、箏、胡弓、尺八などと合奏することもあります。
合奏では、全員がいつも同じ音を弾くとは限りません。曲の中心になる旋律を「本手(ほんて)」、それと一緒に演奏する別の旋律を「替手(かえて)」と呼びます。替手には、音を細かく動かすなどして本手を彩る役割があります。流派によっても違うため、同じ曲名でも、組み合わせは一つとは限りません。
聴き比べるなら、まず歌っている人がどの楽器を弾いているかを見てみましょう。合奏の場面では、一つの旋律を追った後、もう一つの楽器の動きに耳を移してみます。同じ旋律を重ねる響きと、異なる旋律が重なる響きの違いが、鑑賞の手がかりになります。
義太夫節:太夫と三味線が一緒に物語を進める
義太夫節は人形芝居と結びついた浄瑠璃で、文楽でも演奏されています。基本は、語り手である太夫一人と、三味線弾き一人の組み合わせです。太夫は原則として一人で、登場人物のせりふ、心の動き、場面の説明を語り分けます。
三味線も、一定の伴奏を繰り返すだけではありません。音色や音を出す間合い、旋律を使い分けて、人物の気持ちや場面を表し、芝居の進行に関わります。「今は誰の言葉だろう」「言葉が切れた後の音はどう変わっただろう」と、声と三味線を一緒に追う音楽です。
人形を伴わず、語りと三味線で聴かせる演奏は「素浄瑠璃(すじょうるり)」と呼ばれます。短い場面から聴く場合も、先にあらすじと人物の関係を知っておくと、声が切り替わる意味を追いやすくなります。
常磐津節と清元節:語りと三味線の進み方を比べる
常磐津節と清元節は、どちらも歌舞伎舞踊と深く関わる浄瑠璃です。語り手と三味線弾きが複数で演奏し、高い音域の三味線を担当する「上調子(うわぢょうし)」が加わります。上調子は、基本の旋律に高い音で飾りを添える役割です。
常磐津節には、言葉を語る部分と歌う部分があり、踊りに結びついたテンポの運びが大切にされます。三味線は拍やテンポをあまり変えずに、場面に応じた音色の違いで表情をつけます。まずは音楽の進み方と、踊りの動きがどう合うかに注目してみましょう。
清元節では、高い声を使う発声と、歌うように伸びる節回しが特徴です。三味線は語りを引き立て、声の伸び縮みに合わせてテンポも変化する傾向があります。声が長く伸びるところで、三味線がどう付いていくかを聴くと、関係が分かりやすくなります。こうした特徴は傾向であり、速さや声の高さだけで全曲を判別できるわけではありません。
新内節:語りを支える二つの三味線
新内節は、座敷で聴く浄瑠璃として定着した音楽です。通常は太夫一人と三味線二人で演奏し、その一人が上調子を受け持ちます。地声と裏声を織り交ぜる語りに加え、高音域の三味線が装飾を添えるところも聴きどころです。
「新内流し」は、二人一組で歩きながら演奏する形です。一人が弾き語りをし、もう一人が上調子を弾きます。座敷での演奏と新内流しは同じ新内節につながりますが、演奏する場や役割の分担が違います。映像では、三味線を持つ人が歌っているかにも注目してみてください。
端唄と小唄:短い歌にも、演奏の違いがある
端唄は、暮らしや季節、恋心などを歌う短い三味線歌曲です。明快な旋律や規則的な拍が特徴で、唄方と三味線方に分かれて演奏します。小唄は端唄から派生した音楽で、共通する曲目もありますが、演奏の仕方には違いがあります。
小唄の特徴の一つは、撥を使わずに弾く「爪弾き」です。唄を軽く歌い、三味線も小さな音で演奏します。同じ曲名を見つけたら、声の出し方と三味線の弾き方を比べてみるとよいでしょう。「短いから同じ音楽」「小唄だから小さな三味線」とは限りません。
民謡と津軽三味線:歌の伴奏と独奏を分けて聴く
民謡は、歌われてきた場面も手がかりになる
民謡は、人々の生活の中で歌い継がれてきた歌です。仕事で大勢の動きを合わせるための歌、祝い事の歌、盆踊りの歌など、歌われる目的もさまざまです。三味線は伴奏楽器の一つで、太鼓や尺八が加わる場合や、無伴奏で歌う場合もあります。
一定の拍に乗る歌と、決まった拍に縛られず声を伸ばす歌では、聴こえる流れも異なります。「民謡らしい音」を一つに決めず、その歌のリズムや伴奏に耳を向けてみましょう。習いたい場合は、地域名だけでなく、好きな曲名も控えておくと希望を伝えやすくなります。
津軽三味線には、唄に先立つ前奏から広がった独奏がある
津軽三味線は、津軽地方の民謡の伴奏と結びついて発達し、即興的な演奏を取り入れながら、器楽の独奏としても広まりました。じょんから節やよされ節などでは、三味線の前奏から太鼓、唄へ続く形があり、その前奏が独立して演奏されるようになっています。
そのため、同じ曲名でも、三味線だけの演奏と、唄を伴う演奏に出会います。独奏が気に入ったら、唄付きの演奏も聴いてみてください。唄が始まる前の三味線と、唄が入った後の三味線を比べると、独奏だけでは分からなかった役割が見えてきます。
現代の作品では、編成や作曲者も見てみる
三味線の音楽は、古典のジャンルだけに収まるものではありません。現代邦楽には、伝統楽器を使う新しい作品や、異なるジャンルの演奏家が共演する作品があります。声を伴わない器楽曲も多く、独奏から大人数の合奏まで、編成はさまざまです。
現代曲や好きな曲の三味線アレンジを探すときは、曲名に加えて作曲者・編曲者、楽器編成も見てみましょう。古典のジャンル名を一つ当てはめるより、その演奏が何を組み合わせているかを見ると、次に聴く曲を選びやすくなります。
好みの演奏を見つけたら、気になった場面を一つ残す
最初からすべての名前を覚える必要はありません。歌の旋律が気になるなら長唄や地唄、人物のやり取りを追いたいなら義太夫節、短い歌から聴きたいなら端唄や小唄というように、興味から一つ選んでみてください。踊りが好きなら、長唄、常磐津節、清元節の舞踊映像も入口になります。
聴いた後には、「声が止まった後の三味線が好きだった」「二つの楽器が違う旋律を弾いていた」など、気になった場面を一つメモします。曲名と演奏のURLも残しておけば、別の演奏を探したり、教室で習いたい音楽を伝えたりするときに役立ちます。一つの録音だけを、そのジャンル全体の代表と考えずに聴き比べていきましょう。
参考資料
分類と音楽の全体像:日本芸術文化振興会 三味線音楽、歌いものと語りもの。
長唄と地唄:同会 長唄、地歌。前弾・合の手・合方の説明は杵勝会 長唄について。
浄瑠璃の各ジャンル:日本芸術文化振興会 義太夫節、常磐津節、清元節、新内節。
短い歌と民謡:同会 端唄・うた沢・小唄、民謡。津軽三味線は洗足学園音楽大学 津軽三味線。
新しい作品と編成:日本芸術文化振興会 現代邦楽。