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義太夫節と文楽の三味線|太棹が担う役割

義太夫節(ぎだゆうぶし)は、太夫(たゆう)の語りと三味線で物語を表す音楽です。文楽では、この音楽と人形の演技が一つの舞台を作ります。太棹の三味線は、人物の感情や場面の様子を音で表し、語りとともに芝居を進める役割を担います。

文楽を初めて見ると、人形の動きに目を引かれます。その声がどこから聞こえるかを確かめ、声の合間に入る三味線も追うと、人物を表現しているのが人形だけではないことが分かります。

義太夫節は音楽の名前で文楽は舞台芸術の名前

義太夫節は、竹本義太夫が、それまでの浄瑠璃を集大成して創始した音楽です。義太夫は1684年に大坂で竹本座を開き、近松門左衛門の作品などとともに人形浄瑠璃を発展させました。太夫と三味線で物語を語る浄瑠璃の中の、一つの系統にあたります。

文楽は、太夫、三味線弾き、人形遣い(にんぎょうつかい)が一体となって演じる舞台芸術です。その音楽が義太夫節です。文楽という呼び名は、19世紀初めの興行師、植村文楽軒の名につながります。義太夫節の成立と、文楽という呼び名の由来は、時期も指す対象も異なります。

義太夫節は文楽の舞台以外でも演奏されます。人形を伴わず、太夫と三味線だけで聴かせる形が「素浄瑠璃(すじょうるり)」です。歌舞伎で演奏される義太夫節には「竹本」という呼び名もあります。同じ音楽の系統でも、人形のある文楽、音楽を聴く素浄瑠璃、俳優の演技と合わせる歌舞伎では、見えるものと役割の分担が変わります。

太夫と三味線弾きと人形遣いの三業

文楽の三つの役割を「三業(さんぎょう)」と呼びます。太夫は、登場人物のせりふと、情景や気持ちを説明する地の文を、原則として一人で語り分けます。複数の人形が会話していても、その言葉を一人の太夫が担っていることがあります。

三味線弾きは、語りに合わせながら、人物の気持ちや場面の空気を音にします。太夫の語りを導くことも、補い合うこともあります。語りが主役で三味線は同じ伴奏を繰り返す、と決めて聴くより、二人がどのように物語を進めるかを追う音楽です。

人形遣いは、その物語を人形の姿と動きで見せます。三人遣いでは、一体を主遣い(おもづかい)、左遣い(ひだりづかい)、足遣い(あしづかい)が協力して動かします。「三業」は三つの役割、「三人遣い」は一体の人形を遣う分担なので、混同しないようにしましょう。

客席から見て舞台の右側には、太夫と三味線弾きが演奏する「床」があります。読み方は「ゆか」です。ここに目を向けると、人形のせりふを語る太夫と、その隣で弾く三味線弾きを見られます。

客席から見た文楽の舞台の位置関係

  • 人形が演じる舞台:人形と人形遣い。物語を姿と動きで表す
  • 向かって右側の床:太夫と三味線弾き。語りと音で物語を表す

この整理は位置関係の概略で、舞台の寸法や席順を示すものではありません。義太夫節は太夫一人、三味線弾き一人の組み合わせを基本としながら、道行や舞踊的な場面では、複数の太夫と三味線弾きによる掛合いになることもあります。

太夫の語りには会話と説明と歌うような節がある

義太夫節は、普通の話し声で台本を読むだけの音楽ではありません。人物や情景に合わせて、声の高低や速さ、旋律を使い分けます。語りには「詞」「地合」「節」という要素があり、三味線との関わりも変わります。

「詞」は「ことば」と読み、人物のせりふや、泣く、笑うといった会話の表現です。「地合(じあい)」は、情景や物語の説明にあたる部分で、三味線を伴って語られます。「節(ふし)」では、三味線の旋律に導かれながら歌うように語ります。最初から名称を全部当てるより、会話から説明へ、説明から旋律のある語りへと移るところを聴くと、物語を追いやすくなります。

太夫の前に置かれているのは「床本(ゆかほん)」です。語る文章に、旋律や強弱などの目安を書き込んだ個人用の台本です。映像で床本を見つけたら、いまの声が誰のせりふなのか、状況の説明なのかも考えてみると、太夫が一人で受け持つ範囲の広さが分かります。

太棹は人物の気持ちと場面を表すための楽器

義太夫節で使う三味線は「太棹(ふとざお)」です。棹の太さによる大まかな分類の一つで、細棹や中棹とは、楽器の大きさや糸の太さ、音色が異なります。日本芸術文化振興会の教材では、太夫の語りに応じる低く厚みのある響きが、義太夫節の太棹の特徴として説明されています。

楽器の特徴は、大きな音を出せることだけにとどまりません。三味線弾きは、音色や音を出す間合い、旋律の型を使い分け、泣いたり笑ったりする感情の動きや、登場人物の違いまで表します。同じ場面の中で誰の思いが語られているかが変わるとき、三味線にも注意を向けてみましょう。

義太夫の三味線には、駒が振動でずれ出るのを防ぐ「駒どめ」など、この分野の楽器ならではの仕組みもあります。三味線の役割と種類の教材では、細棹と太棹、それぞれの撥の比較写真も見られます。楽器名だけでなく、使われる道具の姿まで確認できる資料です。

津軽三味線にも太棹が使われますが、太棹という共通の分類だけで、音楽や弾き方まで同じとはいえません。義太夫節は太夫と物語を表す音楽、津軽三味線は民謡の伴奏と結びついて発達し、独奏へも広がった音楽です。楽器の共通点を知ったうえで、誰と、何を演奏しているのかを分けて見る必要があります。

メリヤスは舞台の動きに合わせて展開する

文楽には「メリヤス」と呼ばれる三味線の演奏があります。短い旋律を繰り返して場面の雰囲気を表し、太夫の語りや人形の動きに合わせて長さを調節します。伸び縮みする布のメリヤスにちなむ呼び名とされています。

演奏するのは床の三味線弾きだけとは限りません。舞台の陰で、別の三味線弾きが演奏する場合もあります。また、「夏祭浪花鑑」の「長町裏の段」などでは、太棹に加え、「高音」と呼ばれる細棹が入る例もあります。文楽の三味線を、どの場面でも床の太棹一挺だけと捉えないほうが、実際の舞台を理解できます。

繰り返しのある音楽が聞こえたら、人形がいま何をしているかにも目を向けてみてください。音楽を決まった長さの背景として流すのではなく、その場の動きと合わせて演奏するところが、鑑賞の手がかりになります。

公式の演奏例から三味線の役割を聴く

寺子屋で人物と場面の変化を追う

「雰囲気を弾く」の教材には、「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋の段」から二つの場面が紹介されています。一つは寺子屋の子供と父親のやり取り、もう一つは、身代わりの首を松王丸が実検する緊張した場面です。

解説では、後者の入り組んだ心情を、太夫が語り分け、三味線が弾き分けるとされています。登場人物の立場を読んでから、声の切り替わりと、その前後の三味線を続けて聴いてみましょう。音の速さや強さだけで「悲しい曲」と決めるより、誰のどんな状況が表されているかを追えます。

はしごのぼりで音楽と人形の動きを見る

「メリヤスを弾く」の教材の「はしごのぼり」は、「伊達娘恋緋鹿子」の「火の見櫓の段」に関わる演奏例です。お七が雪の中ではしごを登り、半鐘を鳴らそうとする場面で使われると説明されています。

まず場面の説明を読み、掲載された実演で旋律の繰り返しを聴く入口にできます。人形の動きも見たいときは、同じ段の舞台映像と合わせて見ると、登る動作と音楽の関係を考えられます。短い解説用の実演と、物語を演じる舞台の全体は分けて捉えましょう。

素浄瑠璃で太夫と三味線の関係を聴く

義太夫節の解説ページには、2021年10月の国立劇場公演「一谷嫩軍記」の「熊谷陣屋の段」が掲載されています。これは文楽素浄瑠璃の会での演奏です。人形を伴わない形から、語りと三味線そのものに注意を向けたいときの入口になります。

同じページには女流義太夫の演奏例もあります。人形があるかどうか、語りと三味線を誰が担当するかを見てから聴くと、義太夫節が文楽以外にも広がる音楽であることを確かめられます。

気になった演奏を残すときは、作品名だけでなく「何の段」かも控えておきましょう。同じ作品でも、上演される場面や形は異なります。場面を一つ選び、あらすじを知ってから声と三味線を聴くと、文楽の舞台を次に見るときにも、その音の役割を追いやすくなります。

参考資料

義太夫節と文楽の関係 日本芸術文化振興会 義太夫節・どんな芸能。

舞台と語り 同会 どんな役割・どんな舞台・義太夫節の特徴・語りの基本。

三味線の役割と演奏例 同会 役割と種類・雰囲気を弾く・メリヤスを弾く。比較する音楽の背景は洗足学園音楽大学 津軽三味線。