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文化譜の奏法記号|スクイ・ハジキ・運指を見分ける

文化譜に添えられた「ス」や「ハ」は、音の出し方を読むための印です。スクイは右手の撥、ハジキは左手の指を使います。勘所の数字と一緒に読めば、どこを押さえるかに加えて、どう鳴らすかまで区別できます。

ここでは、楽譜作成アプリ「和楽一筋」の公開説明書が文化譜用として示す文字の凡例を基準にします。確認したのは2026年10月3日のWeb版です。書籍の文化譜や別の教材を使う場合は、その本の凡例と照らし合わせてください。

スはスクイで右手の撥を使う

採用した凡例の「ス」は、スクイの指定です。撥で糸をすくい上げて音を出します。撥を使う点は普通に打つ音と同じですが、糸を鳴らす方向が異なります。

たとえば、三の糸の0に「ス」が付いていたら、読む内容は「三の糸の開放弦をスクイで鳴らす」です。0が開放弦であることは変わりません。「ス」を見て別の勘所へ動くのではなく、同じ音の指定に撥の使い方を加えて読みます。

スクイをまだ習っていない場合も、記号が右手への指示だと分かるところまでは読めます。実際に弾く段階では、習っている奏法の見本と、糸に触れる向きや音の出る瞬間を確かめます。記号だけから撥の角度や力加減を決めることはできません。

ハはハジキで左手の指を使う

同じ凡例の「ハ」は、ハジキの指定です。左手の指で糸をはじき、音を出します。「ス」と「ハ」は、右手の撥で鳴らすのか、左手の指で鳴らすのかという違いから整理すると読み分けられます。

0に「ハ」が付く場合、0は鳴らす音が開放弦であることを示します。ハジキは左手で行うので、0だから左手が何もしない、と読み替えることはできません。押さえる位置の情報と、発音する動作の情報を分けて読む必要があります。

また、「ハ」だけで、人差し指・中指・薬指のどれを使うかまで決まるとは限りません。指の指定や前後の音が関係します。前の音からどの指を残し、どの指を動かすかは、使っている譜とその演奏の見本を一緒に見ます。

ⅠとⅡとⅢは勘所とは別の指の指定

採用した文化譜の指記号は、Ⅰが人差し指、Ⅱが中指、Ⅲが薬指です。たとえば勘所の3と指記号のⅢでは、数字の形が似ていても役割が違います。3は押さえる位置、Ⅲは使う指を示します。

「三の糸の3、指記号Ⅰ」という指定なら、三の糸の3の勘所を人差し指で押さえると読みます。勘所が3だから三番目の指、とは読みません。糸、勘所、指を別々に言い直してから組み合わせます。

初心者用の教材には、各音に指の記号を丁寧に添えたものがあります。一方、すべての音に指を記すとは限りません。印がない音を見て、直前と同じ指でよいと機械的に決めず、その教材の運指の約束と前後の並びを確認します。

一音を読むときは印の役割を分ける

三本線のどこに数字があるかを見て糸を選び、数字で勘所を読みます。その後に音の長さ、指、奏法を合わせます。音の下線は長さを表す情報なので、「ス」や「ハ」を探すときも読み落とさないようにします。

次の三つは、印の役割を確かめる独自の読解問題です。元の譜面の配置を再現したものではなく、糸・勘所・添えられた印を文章で抜き出しています。音の長さは指定していないので、このまま続けて弾く練習には使いません。

  • A 三の糸の0に、奏法の印「ス」があります。
  • B 三の糸の0に、奏法の印「ハ」があります。
  • C 二の糸の3に、指の印「Ⅰ」があります。

Aは三の糸の開放弦を、右手の撥でスクイにします。Bは三の糸の開放弦を、左手の指でハジキにします。AとBは同じ0でも、音を出す手が違います。Cは二の糸の3の勘所を人差し指で押さえる指定です。Ⅰだけでは、スクイやハジキの指定にはなりません。

この問いで確認するのは、書かれた情報と、まだ決まっていない情報の区別です。Bのはじく指や三つの音の長さは、提示した文だけでは決められません。譜面へ戻ったときは、その音に付くほかの印と前後のつながりも確かめます。

似た印でも別の譜式へ読み方を移さない

文化譜で覚えたⅠ・Ⅱ・Ⅲが、すべての三味線譜で同じ役割を持つわけではありません。鈴木創さんが紹介する生田流宮城派の縦譜では、薬指を「エ」、中指を「中」で示す例があります。そこでの開放弦の数字も、文化譜の0とは異なります。

知らない印に出会ったら、まず表紙や奥付で譜式、発行元、改訂者、版を確かめます。次に、その譜本の凡例で印の名前と、どの音に掛かるかを探します。記号が数字の上か下か、どの音に近いかも一緒に見ると、隣の音の指示との取り違えを調べられます。

検索する場合は「三味線 記号」だけより、「教材名 スクイ」「発行元 運指 凡例」のように教材を特定できる言葉を加えます。字形が分からないときは、曲名、ページ、段、小節と、印の前後にある数字を手元に控えます。小さな印一つだけを切り離すより、調べる対象を絞れます。

記号が読めたら短い見本と結び付ける

手元の曲から、習ったスクイかハジキが一つ含まれる短い部分を選びます。まず糸と勘所を言い、その音で撥を使うか左手の指を使うかを確かめます。指記号があれば、それも別に読みます。

長唄の動きを見たい場合は、東京藝術大学の「アジアの楽器図鑑」に、ハジキとスクイの個別映像への入口があります。自分の曲と同じ音列とは限らないため、記号の付いた音を鳴らすのがどちらの手か、という観点で参照できます。

読む途中で「スとハの意味は分かるが、どの音に付くか迷う」と気付いたら、確認するのは記号の位置です。「付く音は分かるが手が間に合わない」なら、確認するのは前後の動きです。どこで止まったかを分けると、凡例を読み直すのか、短い実演を見直すのかが決まります。

参考資料

和楽一筋 説明書 三味線の記譜法の文化譜用の奏法・指記号を基準にしました。指記号の対応と教材内での表示例は、TORAFUKU 横書き三線譜の読み方も参照できます。

スクイとハジキの概念は、Sonica Instruments 津軽三味線の基礎知識と、長唄のアジアの楽器図鑑 ひきかたを参照しました。Sonicaのページの音声例は、ソフトウェア音源によるものです。

別の譜式の実例は、鈴木創 お三味線の楽譜の読み方で扱う生田流宮城派の縦譜です。各流派の記号をまとめた共通凡例としては用いていません。