三味線は、棹と胴を作り、部品を合わせる仕込み、皮張り、仕上げを経て完成します。文化庁の製作技術の解説も、この五つに工程を分けています。木を三味線らしい形にする仕事に加え、別々に作った部分を合わせ、糸を張って演奏できる状態へ整える仕事があります。
各工程で確かめることも違います。棹では継ぎ目や表面、胴では接合面、仕込みでは部品どうしの合い方、皮張りでは素材に応じた張り具合を見ます。工程名を覚えるだけでなく、何を作り、何を確かめて次へ進むのかを追うと、職人の仕事を理解しやすくなります。
棹と胴の製作には東京和楽器の記録、皮張りや仕上げには別の店の作業例を用います。工房ごとに担当する範囲や使う材料が異なるため、工程の流れとともに、それぞれの方法の違いも見ていきます。
用途に合う形と材料を考える
糸の下に長く伸びる部分が棹、皮を張る木の枠が胴です。棹の上には糸巻きを付ける天神、下には胴の内部を通る中子があります。部品の名前は共通していても、長唄、地唄、民謡、義太夫節、津軽などで、完成する楽器の大きさや重さは同じとは限りません。
文化庁の説明では、棹に紅木、紫檀、花櫚、胴に花櫚や桑などの材料を用います。また、音楽の種類や地域、演奏家の要望によって寸法や重さが異なるため、緻密な調整が必要だとされています。材名を選んだだけで完成形が決まるのではなく、何に使う一丁を作るかが加工の条件になります。
材料から必要な部分を切り出す作業が木取りです。大阪府の工程例では、棹側は天神・棹・中子の材料を取り、胴側は四枚一組の材料を取ります。部品ごとに必要な形へ進めるための準備であり、同じ大きさの木を順に削ればよいという工程ではありません。
棹は継ぎ目と表面を一緒に仕上げる
三つ折の棹では、上棹、中棹、下棹をつなぐ継手を作ります。継手の突き出た部分がほぞで、それを受ける溝や穴と組み合わせます。三つの木が別々に整っているだけでは足りず、つないだときに一本の棹として合うことが必要です。
東京都の伝統技法の説明では、鋸と鑿を使って継手を作り、少しずつ合わせる仕事が紹介されています。鑿は「のみ」です。形を大きく切り出す作業と、ほぞと受けが合うように削る作業は、同じ木を加工していても目的が違います。
東京邦楽器商工業協同組合の工程紹介には、丁斧(ちょうな)による荒削り、鑢(やすり)による丸め、砥石による磨きが並びます。荒削りで大まかな形を出し、丸めで寸法と曲面を整え、磨きで表面を仕上げるという違いです。道具の名前から、削り取る段階なのか、形や表面を細かく整える段階なのかを読み取れます。
機械と手仕事を組み合わせる製作もあります。東京文化財研究所が記録した東京和楽器では、棹を機械で粗加工するときに、後の微調整に使う余裕を残しています。機械で完成寸法まで削り切るのではなく、手で合わせる工程を見込んだ加工です。
その後、下棹と中棹の継手を鑿で調整し、二つをつないでから鉋で面を整えます。別々の木をつないだ状態で削ることで、接合部分も含めて面のつながりを確認します。この記録での「手仕上げ」は、完成品を最後に磨くだけを指す言葉ではありません。継手の合い方を調整する仕事も含まれています。
このように、機械を使うか手で作るかという二択だけでは、工程の内容を説明し切れません。同じ棹の中で、粗加工と個別の合わせを分担している例があります。道具の種類だけで伝統性や品質の優劣を決めず、どの部分を、どの精度まで仕上げているのかを見る方が具体的です。
胴は四枚の木を隙間なく組む
胴は四枚の木で枠を作ります。外側の丸みを整えるだけでなく、内側を削り、隣り合う木の接合面を合わせる仕事があります。四枚を並べたときに外形がそろうことと、接着する面が合っていることは、別々に確かめる内容です。
東京和楽器の記録では、胴の内側の曲面を機械で削り、用途や求める重さに合わせて刃の形や角度を調整しています。外から見える輪郭が似ていても、内側をどう削るかという仕事が残ります。木枠の外観だけでは製作の全体が見えないことが分かります。
接着前には四枚を仮に組み、光に透かして接合面の隙間を確かめます。隙間があれば面を削って微調整してから接着する、というのが同社の記録です。接着剤を塗る前に木どうしの合い方を確かめるので、接着と接合面の調整は別の工程として読めます。
接着に使う材料も全工房で一律ではありません。大阪府の工程例や東京都の伝統技法は膠(にかわ)を挙げますが、東京和楽器の記録には専用の木工接着剤が記されています。膠を使う例はありますが、「すべての三味線の胴は同じ接着剤で作られる」と広げることはできません。
胴の内側に山形の線を刻む綾杉彫り(あやすぎぼり)を施す場合もあります。東京都は鑿で一本ずつ彫る技法を紹介しています。一方、東京和楽器の記録には、機械でこの模様を彫る例が載っています。同じ模様名でも、加工の方法が一つとは限りません。
綾杉彫りは、全品に必ずある仕様でもありません。大阪府は彫りを施すものもあると説明し、東京和楽器の記録では高級品の工程として扱っています。模様の有無から、実際に聞いていない音の優劣を結論することは避けます。形や仕様の違いと、音の評価は分けて確かめます。
仕込みで棹 胴 糸巻きを合わせる
できあがった棹と胴を組み合わせ、合うように調整するのが胴仕込です。棹は胴の穴を通り、中子の先が下端へ出ます。東京和楽器の記録では穴を機械で開けた後、棹を通し、接合や面の状態を見ながら手で微調整します。穴が開いた時点と、棹が適切に収まった時点は同じではありません。
東京邦楽器商工業協同組合も、棹と胴を一丁ずつ手で合わせると説明しています。部品の名前が共通でも、別の三味線の棹と胴がそのまま交換できることにはなりません。既製の部品を取り付けるだけと考えると、この合わせの仕事を見落としてしまいます。
糸巻きも、一本ずつ金具に合うよう削って仕上げます。工程名では糸巻スゲと呼ばれます。糸巻きは回して糸の張りを調節する一方、合わせた位置では戻らず止まる必要があります。穴へ差し込めるだけでなく、調弦に使える状態へ整える仕事です。
ここまでに出てきた継手、胴の接合面、棹と胴、糸巻きと金具には、それぞれ相手となる部分があります。職人は片方の形だけを見て完成とせず、組み合わせたときの状態を確かめます。「仕込み」という言葉には、この個別に合わせる作業が含まれています。
天然皮は一枚ごとの状態を見て張る
皮張りは、木の枠に膜を取り付ける工程です。東京都が紹介する天然皮の技法では、湿らせた皮を木栓(きせん)という道具で挟み、張り台と縄を使って張ります。木栓は皮を留める道具で、完成した楽器に残る部品ではありません。
具体的な調整の例は、菊岡 中むらが公開する地唄サイズの犬皮張り替えの説明から分かります。同店は木栓を付ける位置を整え、胴に糊を付け、縄を使って皮を張る流れを説明しています。ここで四辺を同じ強さで引くとはしていません。皮の個性、厚み、胴の大きさに合わせて引き方を変えます。
途中では縄の張り具合を手で確かめ、皮の状態を見ながら、もじりという道具で微調整します。つまり、同じ回数だけ引けば終わる作業ではありません。どこをどの程度張るかを、その一枚と胴の状態に合わせて判断する工程です。
乾燥後にも張り具合を確認し、木栓を外して皮の端を仕上げます。張っている途中と、糊が乾いた後では、確認する段階が異なります。作業中に引いた強さの説明だけでは、仕上がりまでの確認を言い尽くせません。
この例は天然皮の張り替えなので、古い皮や残った糊を取り除く作業から始まります。新品の製作にその前処理があるわけではなく、人工皮の施工も同じ手順とは限りません。また、前節の東京和楽器は研究所の記録上、皮張りと最終仕上げ前までを担当しています。ここで挙げた皮張りは、別の店が行う修理の例です。
仕上げは組み上げた状態で確かめる
皮が張れた後も、楽器全体での確認が続きます。亀屋邦楽器が2013年に公表した修理の説明では、張り替え後にハ、棹の反り、サワリ、糸巻きの四点を確認するとしています。これは同店が示す確認例で、すべての工房の共通検査規格ではありません。
ハは同店の説明では、駒を掛けたときの、撥で弾く部分の糸と皮の間隔です。皮だけを単独で見ても、この間隔は確認できません。駒と糸を含めて組み上がった状態で見る必要があります。棹の状態や糸巻きも含めて確認するという説明から、皮の張り替えと楽器全体の調整がつながっていることが分かります。
同店は修理を仕上げた後、糸を掛けて音を出し、全体のバランスと響きを確認すると記しています。形の確認で終わらず、演奏できる状態で確かめる段階です。ただし、この作業例から、修理をすれば必ず希望どおりの音になるという保証までは導けません。
工程を知ると楽器の説明が具体的になる
製作の記録を見るときは、部品、使う道具、確認する場所を結び付けて読みます。たとえば「鑿を使う」という一文でも、継手の合わせなのか、胴の内側の彫りなのかで仕事が違います。工程名だけを並べるより、その作業で何が整うのかまで見ると理解が深まります。
手元の三味線について職人に尋ねるなら、「この部分はどの工程で合わせるのですか」「今回の修理では、どこまで組んで確認しますか」と聞く方法があります。この記事は製作を理解するための説明です。刃物の動かし方、糊の配合、加熱条件、張る力を再現する手順としては使わず、実物の作業は製作者に相談します。
参考資料
工程全体は文化庁の三味線棹 胴製作の解説 17ページ、棹と胴の具体例は東京文化財研究所の東京和楽器製作記録と東京邦楽器商工業協同組合の工程紹介を参照しました。皮張りと仕上げの例は菊岡 中むらの張り替え作業と亀屋邦楽器の修理説明で確認できます。