三味線の駒を掛けるときは、駒の向きと置く位置を先に確かめ、糸を擦らずに通せる空間を作ります。置いた後には、三本の糸がそれぞれの溝へ収まっているかを見ます。「指二本分」という位置の目安だけを覚えるより、駒の向き、糸の通り道、取り外しまでを一続きで理解しておくと、毎回の準備で迷いにくくなります。
ここでは、長唄の細棹を中心に、教材に書かれた動作とその理由を説明します。駒の形や留め方、扱う順序には違いがあります。初めて手元の楽器で行う際は、その楽器と駒の組み合わせで実演を見てから試してください。
最初に、一の糸を乗せる側を見分ける
駒の上には、糸を収める溝があります。長唄用の駒について、日本芸術文化振興会の教材は、三つの溝のうち一番大きな溝に一の糸を乗せると説明しています。松永鉄九郎さんの「三味線のしおり」でも、掛ける前に一の糸の糸道を確認します。駒を持ったまま左右を迷わないよう、差し込む前に向きを決めておきましょう。
この見分け方は、説明にある長唄用の駒を対象としています。溝の違いがよく分からない駒や、初めて使う駒では、形の印象だけで向きを決めないでください。糸を溝へ押し込んだり、合わせるために溝を削ったりする作業は、通常の取り付けに含まれません。
駒に留め具が付く楽器もあります。義太夫節の三味線では、演奏の振動で駒がせり出すのを防ぐために、駒どめを使います。留め具のない細棹の説明を見て、そのまま引き抜こうとしないようにしましょう。駒を選ぶ段階では、自分の楽器に使える形と高さなのかも含めて確認します。
駒の位置が決まると、勘所の目安も決まる
駒は、胴の皮の上で糸を支えます。棹の上で糸を押さえる位置である勘所は、上駒から駒までの糸が振動する部分に関わります。松永鉄九郎さんは、駒の位置や高さによって勘所が多少変わると説明しています。駒を動かすことは、見た目の位置を直すだけの作業ではありません。
長唄の説明には、胴の端から指二本分ほどを目安にする方法があります。ただし、同じ説明にもジャンルや駒の種類によって異なると記されています。スズキ「ききょう」の説明書も、根緒のある側からの目安を示しながら、流派や演奏ジャンルによる違いを添えています。
「指二本分」を固定のセンチメートルへ換算して、すべての三味線に使うのは避けましょう。手元の楽器では、どの端を基準にし、どちらから見るのかを実物で確認します。その後は、確認した駒と位置を基準に準備します。違う高さの駒へ替えたときに、以前の位置や勘所の目安がそのまま使えるとは決めないでください。
たとえば、昨日と同じ勘所を押さえているのに音が合わない場合でも、すぐ駒を動かして合わせるのは控えます。駒が普段の位置か、糸が溝に入っているか、調弦が合っているかを分けて確かめましょう。一つずつ見ることで、何を変えたのか分からなくなるのを防げます。
取り付けでは、先に駒が通る空間を作る
楽器を安定して支え、両手を使える状態にします。壁に立てかけた楽器へ、片手で駒を押し込む扱いは避けてください。ケースの出し入れは水平な場所で行い、棹と胴を下から支えます。駒を動かすことに気を取られ、楽器を支える手が離れないようにしましょう。
松永鉄九郎さんの長唄の説明では、胴を膝に乗せ、左手で三本の糸を持ち上げます。駒が入る空間を作ってから右手で差し入れ、各糸を糸道へ収めます。ここで糸を持ち上げるのは、駒で糸を押しのけながら進めるのを避け、駒が糸を擦らないようにするためです。
日本芸術文化振興会の細棹の教材も、三本の糸を持ち上げてから駒を差し込む流れを示しています。写真では、駒と糸がどこで接するかを見ると、文章の動作を理解しやすくなります。ただし、写真一枚から必要な力や持ち上げる高さまでは分かりません。糸を持ち上げるのが難しい場合に、写真の形へ無理に合わせようとしないでください。
貸与楽器用の邦楽普及拡大推進事業の資料には、別の説明があります。糸を持ち上げて胴の中央付近へ駒を置き、糸を溝に掛けてから所定の位置へ移す流れです。糸を傷めにくくし、指を挟む事故を防ぐための扱いとして示されています。この手順は貸与する楽器向けです。長唄の説明と途中の動作を組み合わせ、独自の手順を作らないようにしましょう。
駒が入らない、皮へ引っ掛かる、楽器を安定して支えられない場合は、そこで止めます。力を増やす、別の高さの駒を試すといった方法へ進む前に、糸の張り具合と支え方を実物で確かめてもらってください。難しかった動作を具体的に伝えれば、説明を受ける箇所も絞れます。
置けたら、三本の糸を目で追う
駒を置いた後は、一の糸、二の糸、三の糸が、それぞれの溝へ収まっているかを見ます。溝の縁に糸が乗っていないか、一の糸の側を取り違えていないかを確かめましょう。「駒が立っている」だけでは、この確認は済んでいません。
長唄の説明では、糸道に入ったことを確認した後、根緒から駒、糸巻きへ向かう糸の通り方を整えます。取り付けを終えたら、駒だけを見続けず、根緒側と棹側へ視線を移し、糸の通り道も見ておきましょう。気になる曲がりや引っ掛かりがあれば、教わった状態と比べます。
この確認を済ませてから調弦へ進みます。貸与楽器の資料も、駒を取り付け終えた後に、講師の指示に従って調弦する構成です。初めて出した音に違和感があっても、駒だけが原因だと決めつけず、準備のどの段階で違いが生じたかを確認します。
位置を教わったときは、見る方向をそろえた写真や短いメモを残す方法もあります。次回に「一の糸の側」「基準にする胴の端」「糸が通る溝」を思い出すための記録です。写真上の長さを測って実物の寸法を決めたり、別の三味線へ位置を移したりする基準にはしません。
外すときは、取り付けの説明を逆にたどるだけにしない
駒を外す際は、手元の楽器で教わった片づけ手順に従います。貸与楽器の資料では、糸巻きで糸を緩め、糸を持ち上げてから駒を棹側へずらし、手前へ動かして外します。糸を傷めないための動作として説明され、緩める程度は講師や楽器店へ確かめるよう記されています。
一方、スズキ「ききょう」の説明書は、演奏後の項目で駒を外すこと、糸を緩めることの順に記載しています。これらを一つの共通手順にはできません。糸巻きを何回回すかという数字だけを覚えるより、その楽器で駒を無理なく扱える状態を実物で確認してください。
細棹の教材には、駒を外した後に、さわり山を傷めないための糸の扱いもあります。駒を取り去れば必ず片づけが終わるわけではない、という点も覚えておきましょう。東サワリや駒どめのある楽器へ同じ操作を広げず、外した後の糸をどう収めるかまで一緒に教わります。
外した駒は、決めた入れ物へ戻します。割れや欠け、糸が触れる部分の変化を見つけたら、次に使う前に確認が必要です。溝を削る、皮に印を付ける、接着して動かなくするといった作業を、毎日の置き外しに加えないでください。
次の練習で再現するための確認
一度教わっても、取り付けの途中で手順が分からなくなることはあります。その場合は「できなかった」だけでなく、「向きが分からなかった」「糸を持ち上げるところで楽器が動いた」「外すときに駒が引っ掛かった」のように、止まった箇所を分けて伝えましょう。
次に確認する順序は、駒の向き、位置の基準、支え方、差し込む動作、糸道、外した後の収納です。一度に覚えきれなければ、置く動作と外す動作を別々に見せてもらい、自分でも同じ状態へ戻せるかを確かめます。毎回の準備では、新しい位置を探すより、確認済みの状態を丁寧に再現していきましょう。
参考資料
松永鉄九郎「三味線のしおり」駒を掛ける、同・勘所の説明、日本芸術文化振興会「細棹三味線」、同・文楽の三味線、スズキ「ききょう」取扱説明書を参照しました。