三味線の「三つ折れ」は、長い棹を上棹・中棹・下棹の三つに分けられる構造です。蝶番で折り曲げるのではなく、継ぎ手を抜き差しして組み立てます。一方、途中に継ぎ手がない棹は「延べ棹」や「一本棹」と呼ばれます。分けられるかどうかは、収納だけでなく、製作や修理の仕方にも関わります。
手元の三味線を知るには、まず購入時の仕様と外から見える継ぎ目を確かめます。分解できそうに見えても、試しに引っ張る必要はありません。ここでは継ぎ手の仕組みと、購入や持ち運びの前に見ておきたい点を説明します。
三つ折れは三本をつないで一本の棹にする
上棹は天神に近い側、中棹はその間、下棹は胴に近い側です。三つ折れでは、上棹と中棹、中棹と下棹の間に接合部があります。組み上がると一続きの棹として使いますが、収納時には三つの部分に分けられます。
継ぎ手には、突き出したほぞと、それを受ける穴があります。接する面に溝などの細工を施したものもあります。凹凸をはめ合わせて位置をそろえる仕組みで、折り畳み傘のように関節を曲げる構造ではありません。
製作の段階では、長い材料を切り分け、接合部を作って合わせたうえで、棹の丸みなどを仕上げます。完成した長い棹へ、後から単に切れ目を入れていると考えるより、接合部を含めて一本に仕立てていると捉えると分かりやすくなります。
延べ棹にも用途に合った製品がある
延べ棹は、棹の途中を上・中・下に分けない作りです。「一本」というのは、この途中の継ぎ方についての呼び名です。楽器全体が一つの木から削り出されている、という意味ではありません。棹と胴の合わせ方は別に確かめます。
三つ折れだけが現行の製品というわけでもありません。たとえば亀屋邦楽器は、津軽用のアフリカ花林三味線に延べ棹の仕様を掲載しています。使うジャンルだけから、手元の楽器も必ず分解できるとは決められません。
購入時には、「三つ折れですか」「棹のどこが分かれますか」と聞くと明確です。長さ、太さ、木の種類は、継ぎ方とは別の項目です。「太棹だから三つ折れ」「紅木だから同じ継ぎ手」という読み替えは避けましょう。
継ぎ手は持ち運び以外にも関わる
三つ折れの分かりやすい利点は、分解すると小さく収納できることです。三つ折れ用のケースは、その状態で収めるためのものです。組んだまま運ぶ長いケースもあるので、三つ折れの楽器を買ったら毎回分解しなければならない、という関係ではありません。
製作者の東京和楽器は、継ぎ手を設けると、製材時に木の節を避けながら材料を使えると説明しています。継ぎ手のない延べ棹では、一本を通して使える材料を選ぶ必要があります。継ぎ方には、出来上がってからの便利さだけでなく、木の取り方の違いもあるのです。
さらに、継ぎ手を利用して棹のゆがみを直す修理もあります。ただし、分解できればどんな変形でも直る、という保証ではありません。修理に使える構造があることと、目の前の個体を直せることは分けて考えます。
金細や溝の呼び名は仕様を確かめて読む
継ぎ手の穴に金具を入れる作りがあります。金や銀の金具を用いたものは、金ほぞ、銀ほぞなどと呼ばれます。金具を使わない紅木棹もあるため、三つ折れであることと、金具が入っていることは同じではありません。
溝の形にも違いがあります。亀屋邦楽器の民謡紅木金細三味線では、上棹と中棹の上側を二本溝、中棹の下側と下棹を段溝と説明しています。同じ一丁でも、二つの接合部が同じ形とは限らない実例です。
商品説明の「金細」「二本溝」だけで、音のよさや現在の状態まで判断することはできません。購入を検討するときは、どの接合部がその仕様なのか、修理歴があるか、いま正常に組み上がるかを確認します。材質の格付けと、個体の整備状態を分けて読むためです。
普段は組んだ状態の変化を見る
楽器を安定して置き、見える継ぎ目を正面と側面から見ます。前はなかった隙間や段差、欠けが見えないかを確認しましょう。すでに写真があれば、同じ向きから撮ったものと比べると、気づいた場所を説明しやすくなります。
継ぎ目の線が見えること自体は、分解式の構造と矛盾しません。一方、いつもより隙間が目立つ、通常の構えで接合部が動く、途中までしか入らなくなった、といった変化は点検してもらう情報です。写真の線の太さだけから、緩みの程度を測ることはできません。
確かめるために棹を揺すったり、隙間へ紙を差し込んだりする必要はありません。動きを感じた場面と、見えた位置を残せば十分です。継ぎ手を削る、接着する、力を足して押し込む作業は、組み立ての練習と分けて扱います。
分解前に専用の仮継を確かめる
分解した棹の接合部を守るための道具に、仮継があります。棹の端にはほぞなどの繊細な部分が現れるため、三つ折れの状態で運ぶときは、楽器に合う保護の方法まで準備しておきます。
仮継は何にでも使える共通の栓ではありません。修理工房の結は、棹の太さや丸み、継ぎ手の溝に合わせて一つずつ作ると説明しています。別の三味線の仮継を無理にはめると、ほぞを壊す場合があります。
中古品や譲り受けた楽器では、付いてきた仮継がその一丁に合うものかも確認しましょう。合わないものを削って使ったり、浮いたまま押し込んだりせず、元の組み合わせが分からないことを店へ伝えます。分解してよい状態か、外した後をどう守るかが確認できてから、扱い方を教わります。
固いときも緩いときも力で調節しない
東京和楽器は、継ぎ手の緩みによるビリつきや、接合部の破損、目違いの修理を、分解式のメンテナンスとして挙げています。目違いとは、合わせた部分に段差が生じることです。継ぎ手のある楽器では、こうした接合部の状態も確認の対象になります。
固くて外れない場合と、簡単に動いてしまう場合は、同じ症状ではありません。どちらも「もっと強く組めばよい」と処置せず、どの接合部で、いつから、普段とどう違うかを伝えます。無理に外して内側を撮影するより、今の状態を保った写真の方が役立つ場面もあります。
三つ折れと延べ棹を選ぶときは、使う音楽、持ち運ぶ頻度、収納場所、そして手元で扱えるかを順に考えましょう。継ぎ方の名前だけで音を順位づけず、実際の一丁の説明と音を確かめると、自分の使い方に合う構造を選べます。
参考資料
部位と継ぎ方は松永鉄九郎さんの棹の構造、製作の考え方は東京和楽器の天神と棹と東京邦楽器商工業協同組合の製作工程を参照しました。
仕様の実例は亀屋邦楽器の民謡紅木金細三味線と津軽三味線、保護具は結の仮継造り、修理との関係は菊岡中むらの棹の曲がりの説明で確認できます。