地唄三味線の譜を読むときは、数字の意味を調べる前に、三絃用の譜か、どの譜式か、どの曲とパートかを確かめます。地唄では三味線を「三絃」と呼ぶことが多いため、楽譜を探すときも「三絃譜」という表示が手がかりになります。
地唄の縦譜には、字体で糸を区別し、開放弦を「いち」で表すものがあります。文化譜の0を覚えている人ほど、同じ数字へ置き換える前に、手元の本の約束を読み直す必要があります。ここでは実在する教材と公開解説を使い、読み始める条件をそろえます。
曲名の前に三絃の譜かを確かめる
箏と三絃で合奏する曲を探すと、同じ曲名で箏譜と三絃譜が見つかることがあります。曲名だけが一致しても、自分が弾くパートの譜とは限りません。表紙の楽器名、商品説明の編成、別売りのパート譜の有無を順に見ます。
大日本家庭音楽会のショップには、「古典箏」「古典三絃」「三絃パート譜」という別々の分類があります。「地唄三絃入門 合奏編 冬の色」は、同社の三絃パート譜として案内されています。最初から三絃の分類で探すと、曲名の似た箏用の教材との取り違えを減らせます。
また、「三絃二部」「三絃2」のような編成なら、三絃が二つのパートに分かれます。二人で同じ旋律を弾くと決めず、自分が担当するパートと、相手が持つ譜を合わせます。総譜かパート譜か、必要な譜が一冊に入っているかも購入前の確認事項です。
家庭式という名前と手元の版を結び付ける
大日本家庭音楽会は、縦書ワク式楽譜の由来を箏の楽譜から説明しています。ただし、出版社名や縦書きという見た目だけでは、三絃譜の記号すべての意味まで決まりません。表紙の曲名に加え、著者・編者、発行元、版や改訂の表示を控えます。
「家庭式の譜です」とだけ伝えるより、「この曲の三絃譜で、編者はこの人、発行元はこの会社です」と特定したほうが、同じ説明に戻れます。奥付に発行年や版の記載があれば、それも残します。本の大きさだけを見て、別の版かどうかを判断しないようにします。
手元に曲のページだけがある場合は、表紙、奥付、凡例がそろった本へ戻ります。凡例は、その本で使う数字や印の説明です。曲の一部だけでは分からない約束を、別の譜式の知識で補わないために使います。
数字は値だけでなく字体まで読む
具体例として、箏曲家の鈴木創さんが公開している、生田流宮城派の縦譜の説明を見ます。この例では、三の糸を算用数字、二の糸を漢数字、一の糸をにんべん付きの漢数字で区別します。数字はツボ、つまり糸を押さえる位置を表します。
同じ説明では、三の糸の「1」、二の糸の「一」、一の糸のにんべん付きの「一」が、それぞれ開放弦です。三つとも「いち」と読みますが、鳴らす糸は違います。算用数字の1を見て、文化譜で覚えた1の勘所を押さえると、読み違いになります。
まず一音について、数字を声に出す前に字体を見て糸を選び、その本での数字の意味を確かめます。読解の確認なら、「1と一は、同じ糸を指すか」と問い直せます。この公開例では答えは違います。前者は三の糸、後者は二の糸で、どちらも開放弦です。
これは生田流宮城派の公開解説に示された一例です。地唄のすべての譜面に共通する凡例としては扱いません。手元の譜の字体、音の長さの表し方、運指や奏法の印は、その教材で確かめます。文化譜との数字の差だけから、曲全体を自動的に読み替えることも避けます。
入門教材でも独奏か合奏かを見分ける
教材名に「入門」とあっても、扱う内容は同じではありません。マザーアースの販売目録では、大日本家庭音楽会刊の安武慶吉「地唄三絃入門」が、基本練習から「かぞえうた」などの小曲までを含む教材として紹介されています。商品番号は3162です。
同じ目録の「地唄三絃入門 合奏編 夏の色」は商品番号3160で、三絃二部、三下りの二曲を収める説明です。最初の一冊で基礎を学ぶのか、相手と合奏する曲を用意するのかによって、選ぶ対象が変わります。「入門」という共通の言葉だけで同じ教材と考えないことが、実際の選び分けになります。
ここで比べているのは販売目録の内容と編成です。各曲の譜面を解読したり、使われる全記号を比較したりする説明ではありません。候補を絞った後は、使う版に凡例があるか、必要なパートがそろうかを確認します。
調子と音の見本をそろえてから読み始める
譜式が分かっても、演奏の準備はまだ残ります。本調子、二上り、三下りのどれを使うかを曲の指定で確かめ、稽古で使う音の高さと合わせます。数字が開放弦を示すと分かっても、その糸の音高は調弦と切り離して決められません。
合奏なら、曲名、編者、パート、調子、演奏する範囲を相手とそろえます。見本の音源を使うときも、同じ曲名だけでなく、編成と担当パートを見ます。自分の譜と違うパートを聴きながら、数字が間違っていると判断しないためです。
最初の確認は、短い範囲で十分です。出だしの数音について糸と位置を読み、その範囲の長さと奏法の印を凡例で確かめます。分からなかった箇所は、「この版の何ページで、どの字体の数字に、どんな印があるか」と残します。準備がそろえば、譜式の違いで迷う時間と、演奏そのものを習う時間を分けられます。
参考資料
鈴木創 お三味線の楽譜の読み方は、生田流宮城派の縦譜について、字体、ツボ、開放弦を説明する公開教材です。本文の数字の例は、この適用範囲で用いました。
出版社と分類は、大日本家庭音楽会の縦書ワク式楽譜の由来と沿革、ショップ、地唄三絃入門 合奏編 冬の色を参照しました。教材二点の内容と商品番号は、マザーアースの安武慶吉作品の販売目録によります。