三味線の糸を替えるときは、古い糸を外す前に、胴側の留め方と糸巻きへの巻き方を確かめます。新しい糸の端を二か所へ固定し、通り道を整えてから、指定された高さへ調弦する流れです。張った後に抜ける場合は、さらに巻き上げる前に、どちらの固定が外れたかを見直します。
ここで説明するのは、布製の音緒に輪があり、糸を通す穴のある通常の糸巻きを使う三味線です。和楽器研究会の公開手順と連続写真を基に、取り付け方の一例を説明します。音緒は「根緒」とも書きます。金属や樹脂の別形式の留め具、歯車式や補助機構付きの糸巻きでは、その製品の取り付け方法を確認してください。
外す前に三本の通り道を残す
まず、何の糸を交換するかを決めます。一・二・三の区分、メーカー、素材、袋の番号を確認しましょう。たとえば丸三ハシモトの13-2と13-3は、二の糸と三の糸を表す別の表示です。数字が同じ部分だけを見て、違う位置に使わないようにします。糸の選び方に迷う場合は、取り外しより先に適合品を確定します。
取り付いている糸を、音緒から駒、上駒付近、糸巻きまで目で追います。交換する糸が、どの輪とどの糸巻きにつながるかを、全体と接写で残しておくと見返せます。三本とも同時に外すより、まず対象の一本を特定して進めると、ほかの糸を取り違えずに済みます。ただし、現在の張り方に疑いがある場合は、写真を正解の見本にはしません。
糸巻きの位置を「上のもの」「右のもの」だけで覚えると、楽器を裏返したときに迷います。どの糸につながっていたかを確かめてください。穴に入る向き、余った端の位置、巻かれた糸が寄っている側も記録します。取り付け後に同じ糸を追えることが、確認の目安になります。
楽器と駒の置き場を先に用意する
安定した場所で楽器を支え、交換する糸と袋、駒の入れ物を手の届くところへ置きます。壁に立てかけた楽器を片手だけで押さえながら、もう一方の手で張り替える方法は避けましょう。糸の端が動く範囲に顔を近づけないことも必要です。
駒は、手元の楽器で教わった順序に従って外し、専用の入れ物へ移します。駒を引き抜くために力が必要なら、糸を無理に持ち上げ続けずに止めます。張り替える作業と、駒を置き外しする作業は続いていますが、それぞれの扱いを確認してから進めてください。
古い糸は張りを解いてから外す
対象の糸巻きをゆっくり動かし、糸を緩めます。回す向きは、糸が巻き取られるか、送り出されるかを見て確かめます。写真にある左右の表現を、見る向きが違う自分の楽器へそのまま移さないようにしましょう。巻き戻しに強い力が必要なら、手を止めます。
張りが解けたら、糸巻きの周囲に巻かれた部分と、穴に通っている端を確認します。絡んだ糸をほかの糸へ引っ掛けたまま引かず、対象の糸を解いて外します。続いて、音緒の輪へ固定された部分を緩め、古い糸を取り外します。切れた糸が絡み、どの端か分からない場合は、無理に引き抜かずに取り付け状態を見てもらいます。
音緒を胴から丸ごと外すことと、音緒から一本の糸を外すことは別の作業です。交換のために、音緒本体の結び直しや棹の分解まで行う必要があるとは考えないでください。音緒の輪に傷みが見つかった場合は、そこへ新しい糸を強く掛けて試す前に点検を頼みます。
音緒の輪へ新しい糸を固定する
布製の音緒の例では、まず新しい糸の端を、交換する糸に対応する輪へ通します。次に、通した端で輪を一つ作り、糸が交差したところを指で押さえます。ここで作るのは三味線の糸自身の輪です。音緒の輪と区別して見ていきましょう。
公開例の写真では、糸の端を手前側へ重ね、交差点を親指と人差し指で保持しています。そのまま作った輪を胴の方向へ倒し、音緒の輪の上からかぶせます。交差点を離して輪の向きを変えると、同じ形を再現しにくくなるため、輪を作るところとかぶせるところを続けて確認します。
最後に、糸の端側と糸巻きへ向かう側をそれぞれ持ち、輪を小さくして音緒へ収めます。完成写真は、糸が音緒の輪を抱くように留まり、長い側が棹へ向かう状態です。結び目がほどける、違う輪まで巻き込む場合は、そのまま調弦へ進みません。張りを加える前に、通した順序を確かめ直してください。
この結び方を、輪のない音緒や、糸の端に加工がある専用品へ当てはめることはできません。太い一の糸と細い三の糸でも、手元で扱った感触は違います。締める力や余らせる端の長さは、写真から共通の数値にせず、使う糸で留まり方を確認します。
糸巻きの穴へ通して端を留める
音緒側を固定したら、糸を対応する糸巻きへ導きます。公開例では、糸を通す穴が見える向きに糸巻きを動かし、上から糸を通しています。その後、糸巻きを戻す方向へ動かし、穴から出た糸先を上に出します。見る向きをそろえ、端が穴を抜け切らないように扱います。
出ている糸先を、音緒から来る長い側の糸へ一回絡めて輪を作ります。糸先側と長い側を引いて、その輪を小さくし、穴の近くへ収めます。穴に通しただけの状態と、端を留めた状態を分けて見てください。巻き始めに端が抜ける場合は、さらに回して押さえ込もうとせず、固定の形を確認します。
公開例には、端が長く残ったときの調整もあります。長い側を天神へ引き戻す動きと、音緒側へ戻す動きを、糸巻きの巻き戻し・巻き取りと組み合わせて端の位置を変えます。初回はこの調整も実物で教わり、張った糸を無理に引いて長さを直さないようにしてください。
巻き重なりと通り道を見ながら巻き取る
端が留まったら、音緒へつながる糸を巻き取る向きに糸巻きを動かします。巻かれる場所を見ながら、ばらばらな輪が重なっていかないよう整えます。公開写真では、間隔の開いた巻きから、まとまった巻きへ整える途中と完成形を確認できます。
巻き数を一律に決める必要はありません。糸の長さや糸巻きの形が違うため、同じ回数でも残るたるみは変わります。反対に、音が低いことを理由に、巻き方を見ずに回し続けるのも避けましょう。糸が穴のところで抜けているのか、音緒側が動いているのか、固定したまま巻けているのかを分けて見ます。
糸がほかの糸と交差していないか、教わった位置を通っているかも確認します。糸蔵の縁への寄せ方などは、写真の形だけを全機種の基準にしません。自分の一丁で確認した巻き位置から外れた場合や、部品へ引っ掛かる場合は、張りを増やす前に巻き方を見直します。
駒を戻してから目標音へ合わせる
取り付けを確認したら、手元の手順で駒を戻し、各糸を対応する溝へ収めます。音緒から糸巻きまでの通り道をもう一度見てから調弦します。合わせるのは、稽古や曲で指定された調子と基音です。交換した糸の袋の番号から、目標音の高さが決まるわけではありません。
新しい糸は、取り付けた直後に音程が下がることがあります。短く音を確かめながら合わせ直します。「なじませる」ために目標より高く張る、強く引っ張る、何回も急に巻くといった処置は加えないでください。繰り返し抜ける場合は結びや巻き、糸巻きが戻る場合は糸巻きの状態と、見直す場所が違います。
同じ場所で続けて切れる、音緒や上駒に傷が見える場合は、交換の反復を止めて点検を頼みます。替えた日、品名、どこで問題が起きたかを残しておくと、次の確認に役立ちます。張り替えが終わったら袋も保存し、次回の補充と交換を同じ条件で始められるようにしておきましょう。
参考資料
取り付けの実例は、和楽器研究会の根緒編と糸巻き編の本文と連続写真を参照しました。見る向きや輪の位置は、リンク先の各段階も合わせて確認できます。
安全上の注意はスズキのききょう取扱説明書、糸の表示は丸三ハシモトのFAQ、繰り返す切断の点検先は亀屋邦楽器のFAQを参照しました。確認日は2026年10月3日です。