青柳譜と弥之介譜は、長唄の譜式を指す二つの呼び名です。縦の三本線で糸を区別し、数字ではドレミにあたる階名を表します。文化譜も三本線に数字を書きますが、数字を勘所として読む約束を、そのまま青柳譜へ移すことはできません。
学び始めるときは、譜式の名前に加え、使う本の版、曲、担当パートをそろえます。ここでは出版社が案内する実際の刊行譜を例に、どこまでを数字から読み、何を凡例で確かめるかを整理します。細かな奏法記号の一覧や、現行版の譜面を再現した読解教材ではありません。
青柳譜と弥之介譜は書名と編者から探す
青柳譜は、考案者の杵屋弥之介の名にちなみ、弥之介譜とも呼ばれます。表記には「彌之介」も使われます。二つの名前を見つけたとき、別々の記譜法と決めず、曲名と編者を照らし合わせます。
お茶の水女子大学図書館の文献案内では、「唄譜三弦譜付研究稽古本」を、長唄の唄と三味線の楽譜、通称青柳譜として紹介しています。研精会譜の「長唄新稽古本」とは別の書名です。「長唄の稽古本」という言い方だけでは、どちらの譜かまで伝わりません。
教材を探す際は、「青柳譜」または「弥之介譜」に曲名を加え、表紙や商品説明の書名、編著者、発行元を見ます。手元の本に奥付があれば、発行年と版・刷も控えます。後から記号を調べるときに、同じ一冊へ戻るための情報です。
三本線と数字から読む内容を分ける
長唄三味線奏者の松永鉄九郎さんは、青柳譜について、階名を数字で表す原則は研精会譜と同じで、糸を縦の三本線で示すと説明しています。線の役割と、数字の役割を分けて考えると、文化譜との混同を避けられます。
数字の1・2・3は、ド・レ・ミに対応する階名です。たとえば「三の糸を示す線に3がある」と文章で示されたら、分かるのは、三の糸を使い、ミにあたる音を求めるということです。文化譜の3の勘所を押さえる、と即座に読み替えることはできません。
これは原則を確認するための文章例で、実際の紙面の左右配置や音の長さを示したものではありません。手元の譜では、どの線が一・二・三の糸かを凡例で確かめ、曲の調子と、その音に付く印を合わせて見ます。
同じ数字に点などが添えられている場合も、その印を省かずに読みます。数字だけを抜き出して別の本の勘所表へ当てはめると、音域や糸の指定などを取り落とすことがあります。最初は数字、線、添えられた印を、一組として残すのが確実です。
同じ吾妻八景でも譜式と付属パートを確認する
具体的な選び分けに、「吾妻八景」があります。マザーアースの青柳譜の目録には、商品番号K4871として「吾妻八景(上調子付)カラー楽譜」が掲載されています。曲名に続く「上調子付」と、青柳式であることが、教材を特定する情報です。
一方、国立国会図書館で公開されている1924年の「長唄新稽古本 第2編 吾妻八景」は、吉住小十郎編の譜です。同じ曲名でも、書名と編者から別の譜と分かります。片方のページや欄の位置を、もう片方へそのまま当てはめることはできません。
青柳譜を用意する指示を受けた場合は、「吾妻八景があります」で終わらず、「青柳式の上調子付きでよいか」まで確認します。上調子を含む譜では、自分が読む担当の欄も合わせます。複数のパートを、一人が順に弾く音列としてつなげないためです。
「カラー楽譜」という商品名だけでは、色が何を表すかまでは分かりません。色分けの意味と読む欄は、その本の説明で確かめます。白黒のコピーや画面表示に変える前にも、色が必要な情報になっていないかを確認します。
表紙が新しくなった版は発行情報を残す
マザーアースの「喜撰」K4860は、長唄青柳式楽譜として案内され、同社の初版日は2025年9月15日です。出版社は、旧邦楽社の長唄三絃古典楽譜を引き継ぎ、表紙を新しくしたと説明しています。曲によって一部修正がある旨も付記されています。
そのため、表紙が違うだけで全く別の譜式だと判断したり、反対に、同じ曲だから全箇所が同一だと判断したりしないようにします。実際に一緒に使う二冊では、曲の開始位置やページ、修正の有無を確認します。発行年は一冊を特定する情報で、譜式の発明年を示すものではありません。
商品番号やISMNがあれば、同名の資料を探し直すときに使えます。ただし、書誌情報がそろっても、凡例を読んだことにはなりません。楽譜を受け取ったら、巻頭・巻末の記号説明や、別冊の解説への案内を先に探します。
初めの一音は何がまだ分からないかまで読む
一音について確認する順番は、担当するパート、糸の線、数字の階名、その音の範囲や長さに関わる印です。その後に、運指や奏法の指定を見ます。どの情報が分からないかを分けると、必要な説明を絞れます。
たとえば「三の糸の線は分かるが、数字の横の点が分からない」なら、調べるのはその版の音域などの記号です。「数字は読めるが、どこを押さえるか分からない」なら、曲の調子と、その糸で音を出す位置との対応を確かめます。同じ「読めない」でも、次に見る場所が異なります。
本に書き込みをする場合は、元の数字、点、線を隠さない位置へ、確認できた意味だけを添えます。文化譜の番号を全音に機械的に振るより、今習う短い範囲で、元の指定と演奏を結び付けます。
稽古で使う版と短い見本をそろえる
読み始める前の確認は、「青柳式か」「どの版か」「どのパートか」「どの調子か」「数字と印をどの凡例で読むか」です。曲名だけで済ませず、この条件を一つのメモにすると、別の譜や別パートの見本との取り違えに気付けます。
最初から全曲を変換する必要はありません。学ぶ一冊と短い範囲を決め、階名の数字を読み、同じ版に合う演奏の見本で確かめます。青柳譜を読む準備は、別の譜式の約束を当てはめることより、目の前の本が示す情報を順に見分けるところから始まります。
参考資料
名称と記譜の原則は、松永鉄九郎の三味線のしおり 楽譜。書名の対応は、お茶の水女子大学図書館の日本音楽についての文献案内 近世を参照しました。
刊行譜の実例は、マザーアースの長唄青柳楽譜の目録にあるK4871と、喜撰 K4860です。比較した小十郎編の資料は、国立国会図書館の長唄新稽古本 第2編 吾妻八景です。各書誌の確認と、現行譜の全記号の読解は分けています。