民謡三味線の楽譜は、曲名が見つかっただけでは選び終わりません。歌の伴奏に使うのか、踊りに合わせるのか、三味線の合奏をするのかで、必要な譜が変わります。曲の形、調子、担当パート、譜式を、これから行う演奏とそろえるのが選び方の基本です。
同じ曲名でも、旧節・新節、踊り用、替手、本調子版・二上り版などの表示があります。こうした言葉を省かずに読み、編著者と収録巻まで特定します。ここでは出版社と演奏団体の実在教材を使って、購入前に何を比べるかを説明します。
歌の伴奏と踊り用と合奏用を分ける
まず「何のために弾くか」を一文にします。「この歌い手の歌を伴奏する」「教室で二部合奏する」「手踊りに合わせる」のように決めると、目次で探す言葉が変わります。独奏を聴いて気に入った場合も、その演奏が歌の伴奏と同じ構成かは別に確かめます。
全音楽譜出版社の富塚孝著「津軽三味線民謡曲集」には、「津軽じょんがら旧節(手踊り用)」と「津軽じょんがら新節(唄付用)」が別の収載曲として並びます。「じょんがらが載っている」という情報だけでは、どちらを練習するかまで決まりません。目次の括弧書きにも、選曲に必要な情報があります。
同社の野口啓吉編「たのしい三味線曲集」は、民謡を含む教材曲を二部合奏に編曲した曲集です。歌を伴奏する譜を探しているときは、「二部合奏の編曲」という目的が、自分の予定と合うかを考えます。知っている曲の数だけで比べるより、使う場面を先に合わせるほうが選びやすくなります。
曲名に付く地域名と節名を省かない
候補をメモするときは、地域名や節名を含む表記を、そのまま残します。似た名称を見つけても、同じ曲の別名なのか、別の伝承や編曲なのかが分からなければ、同一のものとしてまとめません。教室で指定された名前と、出版社の目次を照合します。
歌い手の伴奏をするなら、曲名に加え、合わせたい歌の見本も確認します。出だし、歌う範囲、前奏、間奏、終わり方のどこを合わせるのかが分かれば、全曲譜か抜粋か、合奏用の編曲かを見分ける手がかりになります。録音を渡す場合は、共有してよい正規の音源やリンクを使います。
目次だけで旋律や節回しの一致までは判断できません。購入候補の編者や流派が分かる場合は、稽古で使う形と照らし合わせます。一方の版と違うことだけを理由に、もう一方を誤譜と決める必要はありません。
同じ曲でも本調子版と二上り版がある
小山会の公式ショップが案内する「津軽三味線小山貢民謡集 第十集」には、「帆柱起し音頭」の二上り版と本調子版が、別々に記されています。同じ本、同じ曲名の中にも、調子を選ぶ必要がある実例です。
本調子と二上りは、糸同士の音の関係が異なる調弦です。譜を読む前に、どちらの版を使うかを決めます。「曲名は合っているから、普段の二上りのままでよい」と考えると、本調子版の指定とは合わなくなります。
さらに、調子の種類と、歌い手に合わせる音の高さは分けて確認します。津軽三味線の教室を運営する獅子道の解説でも、二上りのまま歌い手や曲のキーに合わせて音高を変える例が示されています。「二上り」と分かっただけでは、録音と同じ高さに調弦したことにはなりません。
相手と合わせる前には、使う調子と基準の音高を、それぞれ言えるようにしておきます。本数や尺寸で伝える場合は、相手がどの音を指しているかも確かめます。数字の呼び方だけを、別のジャンルの約束へ移さないようにします。
本手か替手かを巻数まで含めて確かめる
小山会の公式ショップでは、二上り編に「十三の砂山」が、第十集に「十三の砂山(替手)」が掲載されています。曲名に「替手」とあるかどうかも、合奏のために譜を選ぶ手がかりです。
合奏相手と「十三の砂山を用意する」とだけ決めた場合、どの巻の、どのパートかがまだ残っています。本手を弾くのか、替手を弾くのかをそろえ、指定された巻やページを共有します。二冊が同じ曲を扱っていても、目次だけから両方の譜の音符を比較したことにはなりません。
音の見本にも担当の違いがあります。小山貢民謡集のメドレー集CD、OYM-CD201には、二上りメドレーの「本手のみ」と「替手のみ」が別に収録されています。見本を探すときは、CDの題名だけでなくトラック名も見ます。自分が弾くパートを確かめる音源なのか、合奏全体を聴く音源なのかを分けられます。
民謡の楽譜がすべて文化譜とは限らない
譜式も購入前に確かめる項目です。富塚孝著「津軽三味線民謡曲集」は、出版社が五線譜の曲集と案内しています。一方、「たのしい三味線曲集」は文化譜と五線譜を併用しています。「民謡」「三味線」という分類だけで、どちらも文化譜だと考えることはできません。
今使っている教本が文化譜なら、候補の譜にも文化譜が載るか、数字や奏法記号の説明があるかを見ます。五線譜を選ぶ場合は、音を三味線の糸と勘所へ結び付ける方法を、対応する教材で学ぶ必要があります。読み慣れた譜式と、弾きたい曲の形が、両方そろうものを探します。
譜式の一般的な読み方と、曲の版選びは別の作業です。文化譜の数字が読めても、違う調子の版や替手を選んでいれば、相手の見本と一致しないことがあります。うまく合わないときは、指使いを直す前に、書名、巻数、パート、調子を見直せます。
購入前のメモを一枚にまとめる
最後に、曲名を省略せずに書き、その下へ編著者、出版社、巻数・版、用途、パート、譜式、調子、合わせる音の高さを控えます。対応音源があれば、商品番号とトラック名も添えます。未確認の欄は空欄のままにすると、何を調べれば選べるかが分かります。
たとえば「第十集の帆柱起し音頭」まで決まったら、次は本調子版か二上り版かを選びます。「二上り編の十三の砂山」なら、合奏で担当するパートと、その譜に合う音の見本を確かめます。曲名を出発点にしながら、一つずつ条件を足すことで、実際の演奏に使える一冊へ絞れます。
参考資料
教材の目的と譜式は、全音楽譜出版社の津軽三味線民謡曲集とたのしい三味線曲集を参照しました。曲名、調子別の版、替手の収載例は、小山会公式ショップおやま商店の二上り編と第十集の案内によります。
音源の収録区分は、Far East Island Recordの小山貢民謡集メドレー集 OYM-CD201で確認できます。音高と調子の整理は、獅子道の調弦と、日本三曲協会の三曲の楽理用語の「十二律と調子」を参照しました。